2023 Fiscal Year Research-status Report
Transition of Queerness in American Literature: Focusing on 20th Century Gay Literature
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22K00409
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
藤倉 ひとみ 創価大学, 文学部, 講師 (80814201)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / クィア / 20世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、前年度に研究発表したGore VidalのThe City and the Pillarに見られるクィア的セクシュアリティの可視化についてさらに発展させ、自分と密接に関係する家族やコミュニティで築かれたジェンダーロールの支配について考察するため、文献調査をもとに関西英語英米文学会第80回大会で研究発表を行った。それらがアメリカ社会に底流する男性優位主義から生み出されており、そのような社会構造の中で女性たちは不当に扱われているが、したたかに自分の望みを叶えていく側面が密かに描かれていることを明らかにした。その一方で男性たちが抵抗と敗北を繰り返す様を追究し、その根底に「他者を支配したい」という感情が人々の心に渦巻いていることを明らかにした。 また、研究計画の第1章にあたる「クローゼットされたクィア―1940年代以前」で取り上げる作品の一つであるRichard MeekerのBetter Angelについての研究発表も行った。本作は、性的な赤裸々さや同性愛者への直接的な非難はないのだが、作品の主題がクィア性であることは読者の誰もが感じる。それは他者から向けられる非難ではなく、クィア当事者が自らのセクシュアリティやジェンダーが社会規範に適合していないことからあふれだす嘆きであり、つまり他者からの直接的な軽蔑ではなく社会に根差した見えない差別が存在することを意味していた。そのような1930年代のクィアに対する抑圧を本作から読み取り、1920~30年代にかけて当事者が置かれた状況・立場を紐解いてみると、「普通」の男の子とは異なる息子の様子に、母親は悩みながらもその「違い」を受け入れ、「違い」を個性として伸ばそうとするという姿勢が浮き彫りとなった。その1930年代当時の親から子への教育としては珍しかったであろう点に着目し、本作で提示される主題が同性愛のみでないということを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画として、前年度の計画箇所も含めると第1~4章にあたるの作品の精読と分析・考察とそれに伴う二次文献の調査も含まれていたが、年目の研究計画にああたる「第5章 クィア作家としての呪縛とエイズの到来―1970年代・80年代」のほうを先に着手してしまったため、「第3章 カミングアウトするクィア―1950年代」と「第4章 クィア・コミュニティの形成―1960年代」で予定よりも進捗状況にやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度と今年度に研究した第2章の内容の一部であるThe City and the Pillarに関する研究論文は、令和6年度に学術誌への掲載が決定している。本来、前年度に取りかかるべきであった1950年代・60年代のアメリカのゲイ文学を次年度では取り上げ、口頭発表、もしくは論文投稿できるよう準備する。コンスタントに口頭発表、論文投稿を行ったうえで、本研究の最終的な成果物として書籍出版ができるよう、次年度はそれに向けて執筆を進めていく。また、「第4章 クィア・コミュニティの形成―1960年代」で取り上げるJames BarrのQuatrefoilにちなんだ図書館「Quatrefoil Library」がアメリカのミネアポリスにある。この図書館はLGBTQコミュニティのコミュニティセンターとしても存在しているという。小説Quatrefoilを知るうえでも、またアメリカのクィアの歴史を学ぶうえでもこの図書館に足を運び、直接得た学びを本研究に活かしたいと考える。
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Causes of Carryover |
オンライン開催の学会が増えたり、文献調査のため国内の図書館および海外への渡航に向けた日程調整がうまくいかなかったため、旅費・宿泊費が縮小された。次年度より想定している交付額の使用を心がけ、書籍出版費に予算の多くをあて、なおかつ購入費は海外から取り寄せる文献に多くあてることを予定している。
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