2022 Fiscal Year Research-status Report
Aspects of the Pictorial Turn in Contemporary British Theatre
Project/Area Number |
22K00433
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
金田 迪子 実践女子大学, 文学部, 助教 (30876941)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 英米文学 / 現代演劇 / イギリス演劇 / 視覚文化 / 画像論的転回 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代イギリス演劇を、1990年代以降の「画像論的転回」の文脈に照らして検討し、作品および作家の語りから読み取ることのできる社会的認識や審美的態度を含む個人の認識論的変容の様相を明らかにすることを目指す。本研究はまず、これまで視覚文化・表象との関わりが詳細に検討されてこなかった現代イギリスの劇作家や戯曲の経時的変容の一部を明らかにする。また本研究は文学研究と視覚文化・表象研究の2領域を接続し、とりわけポストコロナの新しい生活様式において映像文化に注目が集まる中、個人の自己認識・自己構築に視覚文化がもたらす影響を可視化し、視覚文化・表象と社会をめぐる諸問題に対して現代イギリスの劇作家や戯曲がさまざまな示唆を与えうることを示すという意義がある。 本年度の研究の成果としては、今年度の研究課題の一つとしていた(1)「画像論的転回」の主唱者であるW.J.T.ミッチェルの論考や論考の発表当時の学術的な背景等の検証を進めることができたこと、それに関連して(2)現代イギリス演劇史における視覚的な演劇の登場に関する論考の一部を検討することができたこと、また2025年度の研究課題につながる(3)英国ナショナル・シアターに収蔵されている現代イギリス演劇の上演映像の一部を調査することができたこと、(4)イギリスで刊行されたチャーチルの共同制作者に関する資料を入手できたこと、の4点が挙げられる。(1)(2)ではミッチェルの論考を現代イギリス演劇の分析に応用する方法を検討し、1990年代以降の視覚的な演劇の登場の事例として注目されるデイヴィッド・ヘアのThe Blue Room(1999)を対象に試験的な分析を試みることで、文学分野と視覚文化・表象研究の2領域を接続した分析の方法論を検討することができた。(3)(4)については今後も継続的な調査を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に当初計画していた研究課題①:1990年代以降を特徴づける視覚文化・表象の特定については、引き続き検討の余地があるが、研究成果の一部を論文の形で発表した。一方で本年度は、当初2024年~5年度に検討していた研究課題③:戯曲と視覚文化・表象の関わりの分析に関連する映像資料の調査をイギリスにおいて行うことができた。 2023年度に予定していた研究課題①については、主要な論考であるW.J.T.ミッチェルの「画像論的転回」に関する資料の調査と検討を進めることができたが、周辺の視覚文化・表象に関する理論的な考察の収集を引き続き行う必要がある。 2024年度に予定していた研究課題②については、イギリス現代演劇の映像資料を収集している主要なアーカイヴであるヴィクトリア・アンド・アルバート博物館内のThe V&A National Video Archive of Performance、ナショナル・シアターのNational Theatre Archiveの2箇所の内、National Theatre Archiveでキャリル・チャーチルの作品を中心に映像資料の調査を行った。その結果、チャーチルの戯曲には記載されていない初演時の演出や舞台美術・衣装・照明音響デザイン等の上演上の要素を確認することができた。また並行してチャーチルの共同制作者である振付家David Lan、Les Watersに関する新資料を同地の演劇専門書店で入手することができた。そのため計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題①:1990年代以降を特徴づける視覚文化・表象の特定を1年分延長し、引き続き課題の整理と検討を進める。並行して本年度より着手する予定であった研究課題②:イギリス人劇作家の語りにおける視覚文化・表象への言及の収集についても予備的な調査に着手する。 ①については、W.J.T.ミッチェルの論考を踏まえつつ、ジャン・ボードリヤールやスラヴォイ・ジジェクの湾岸戦争論、エドワード・サイードのイスラム報道論、ジュディス・バトラーのイラク戦争論等を筆頭に、当初研究計画で予定していた同時代の視覚文化に関する論考を検討し、ミッチェルの「画像論的転回」の相対的な位置づけを検討した上で、同時代の演劇作品の分析への応用方法を引き続き検討する。また②についても、同時代の劇作家の一次資料を中心に記述の調査に着手する。 また研究課題③:戯曲と視覚文化・表象の関わりの分析に関連する映像資料の調査については、上演映像の視聴に時間を要するため、次年度以降に分割してイギリスでの調査研究を進める。
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Causes of Carryover |
本年度の海外調査の結果に基づき、当初の研究計画で想定していた海外調査の日数を見直し、旅費の増額のために本年度予算の一部を次年度に持ち越す。
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