2022 Fiscal Year Research-status Report
父娘関係を背景にしたナチス少女文学の成立と展開についての研究
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22K00446
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, GS教育系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / ナチス / 少女小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績としてまず挙げられるのは、本研究が取り扱う一次文献であるナチス時代の少女小説を集中的かつ網羅的に収集できたことである。交付申請書の研究実施計画に記した通り、本年度に収集予定だった1930年代末から40年代、すなわち第二次世界大戦中のナチス少女小説は、当初の想定以上に集めることができた。 こうして集められた資料をもとに、本年度の後半には、ナチス時代の少女小説に描かれたデンマーク表象について、学会発表1件・研究会発表1件を行った。具体的には、ナチス時代にもっぱら少女小説を手がけた流行作家マリルイーゼ・ランゲ(生没年不詳)の『ガソリンスタンドの女の子』(1938)および『映画デビューする女の子』(1940)の作品分析を通じて、最も近い他者である隣国デンマーク表象が、祖国ドイツの郷土讃美を強調するための踏み台として利用される様や、両大戦間期の少女小説から継承されたはずの開放的な少女像が、戦争の勃発によって物語の後半、突如として内向きに変容される過程を指摘した。 これらの研究発表をきっかけに本年度末には、デンマークを舞台にしたランゲのもうひとつの少女小説『カーリンのデンマーク自転車旅行』(1938)の作品分析に取り組んだ。これら三作品の父娘関係、とりわけ父の位置付けは作品ごとに異なるが、主人公の少女には一貫して活動的という特徴がある。また、いずれの物語においても最後は、娘の父に対する思いが父の国へのそれへと昇華される点で共通している。とはいえ、その際にデンマークという隣国が果たす触媒としての役割は戦前と戦中の作品で微妙に異なっている。その点について考察した結果は、次年度に学術論文の形で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、ナチス時代の少女小説に描かれた父親表象の分析を通して、ヒトラー政権が喧伝した家父長的家族像を、父娘関係という観点から捉え直し、そういった家族像のプロパガンダとして機能したナチス少女文学の変遷の実態を解明するものである。一年目に当たる本年度は、資料の収集・整理を行いつつ、両大戦間期の作品との類似が認められやすい1930年代の作品を中心に、行動的な主人公(少女)と父親の関係について、代表作の作品解釈に従事することを計画していた。これについては、上述の通り学会発表1件・研究会発表1件の研究発表を行うことができたため、おおむね達成されたと考えられる。 しかしその一方で、当初予定されいていたドイツ語圏の図書館・公文書館への資料収集・調査は、感染症の流行継続とそれに伴う社会情勢の変化により、当初計画の変更を余儀なくされた。このことは次年度使用額が大幅に生じたこととも関連する。 また、研究発表についても、上述の学会発表を雑誌論文にまで発展させられなかった点は本年度の反省として残される。もっとも、この課題は次年度には解決される予定であるが、一年目の進捗状況としては、「遅れている。」ことはないものの、「おおむね順調に進展している。」とは言い難い。したがって「やや遅れている。」が妥当と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、本年度中に学会発表を行った研究発表は、次年度に論文としての公表を予定している。 研究実施計画では、二年目はとくに第二次世界大戦中のナチス少女小説に描かれた父娘関係のテキスト解釈、具体的には女性を家庭に留め置きたい一方、労働力の不足によって女性の就労を認めざるを得なくなったナチスの矛盾した政策を反映した少女小説について分析する予定であった。 しかし本年度に行った資料(一次文献)の調査過程で、ナチス宣伝省が1940年代前半に発行した少女向け小冊子シリーズの存在を突き止めることができた。先行研究は、これらの冊子に掲載された小説の通俗性や感傷性に注目し、1930年代前半にナチスが目指したはずの、性別役割を認めながらも国家のために主体的・積極的に行動する少女像の構築が放棄されたことを指摘している。この視点は本研究の当初計画では抜け落ちていたものであり、きわめて重要な示唆に富んでいると考えられる。したがって今後、第二次世界大戦下の少女小説を扱う際には積極的に援用したい。第二次世界大戦中、復古的な少女像が描かれる際に父親はどういった役割を担ったかのかという点にとくに焦点を当て、今後の研究を推進させていく。
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Causes of Carryover |
(理由)感染症の流行継続とそれに伴う社会情勢の変化により、資料収集・調査のための旅費(とくに外国旅費)が使用できなかったため。 (使用計画)次年度こそはドイツ・オーストリアの図書館・公文書館を訪問し、国内では収集困難な基礎資料調査のための外国旅費の使用を実現する。また、本年度に購入できなかった文献および今後の研究計画遂行の過程で生じるであろう不足文献は、可能な限り早期の購入を目指す。
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Research Products
(1 results)