2022 Fiscal Year Research-status Report
詩と詩論──西洋古典文学における「詩論詩」に関する実証的作品研究
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22K00451
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小池 登 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (10507809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大芝 芳弘 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員教授 (70185247)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | カッリマコス / ホラーティウス / 詩論 / 詩論詩 / 西洋古典学 |
Outline of Annual Research Achievements |
詩人が自らの詩作行為について言及するような詩を、広い意味で「詩を論じる詩」として、「詩論詩」と呼ぶならば、西洋古典文学の韻文作品の多くがその要素を含んでいる。本研究はそうした「詩論詩」の系譜の中から、特に注目すべき二人の詩人カッリマコスとホラーティウスを対象として、具体的な詩作品における「詩論」の内実を歴史的に検証するとともに、その詩論を含む当の作品自体の詩としての特質を実証的に分析・検討することで、その詩論的主張と作品自体の内的関連と整合性を見極めることを目標とする。そして「詩論」という観点から当該作品が属するジャンルの伝統と革新の様相や詩作の理論と実践の関係を、具体的な作品に即して解明することを目指す。それにより、「詩論詩」の系譜の重要性に改めて光をあてるとともに、西洋古典文学における韻文作品の創作手法の一端を明らかにすることを期するものである。 研究の初年度にあたる本年度は、当初の計画に従ってまずそれぞれの研究対象に関する先行研究の調査を行い、当該作品に関するテクスト校訂の問題も含めて、注釈書や研究書・研究論文を参照しつつ精密な読解を進めるとともに、次年度以降に向けて問題点の掘り起こし作業を行った。具体的には、ギリシア前古典期・古典期からヘレニズム期に至る諸相を担当する小池は、カッリマコスの詩論の内実を歴史的に検証すべくアイスキュロスを中心とする古典期韻文作品に焦点を当て、その詩論的要素を精査するとともにこれを「詩論詩」の系譜の中に位置付ける作業に着手した。対するにヘレニズム期からラテン文学に至る諸相を担当する大芝は、ホラーティウスに先立つウェルギリウスとその後を襲うオウィディウスに着目して「詩論詩」の観点から観察と分析を進め、特に前者についてはその考察の一部を全国学会の研究発表大会と機関誌で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」の項で述べたように、初年度に予定していた先行研究の調査と概観を行い、カッリマコスとホラーティウスを「詩論詩」の系譜の中に位置付けてその「詩論」の内実を具体的作品を通じて歴史的に検証する作業に着手するとともに、今後に向けた研究課題の洗い出しをおこなった。その過程で次年度以降の課題としてより鮮明になったものには、例えば小池の担当する範囲では、カッリマコスの「精緻で小さな詩」の理論とプラトンやアリストテレスの芸術論との関連、また伝承上は主として断片の形で伝わるカッリマコスの詩論に対する文献学的検証の問題などが、対するに大芝の担当範囲では、ホラーティウス作品中の諸問題、すなわち作家自らが「談論」であって詩ではないと言う『風刺詩』『書簡詩』『詩論』の詩的特質や、抒情詩『カルミナ』におけるカッリマコス的詩論の整合性、さらに統一性と多様性を重視する『詩論』の主張とその創作上の工夫などがある。以上のことから本年度はおおむね順調と言える進捗を得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が開始当初から特に着目するのは、(a)詩人の詩論自体のいわば学説史的な影響関係(当該作品の属するジャンルの伝統だけでなく、哲学的詩論等の影響も重視する)、(b)詩人自身が詩論を語るその作品内で、当の詩論的言及をいかに生かして作品としての統一性や整合性を作り上げているか、その創作上の工夫や配慮を具体的に観察して作品としての特質を明らかにすること、である。本年度の研究実績を踏まえて、役割分担としては引き続き小池がギリシア前古典期・古典期からヘレニズム期に至る諸相を、大芝がヘレニズム期からラテン文学に至る諸相を担当し、上述の課題に関して各自で検討・考察を深めるとともに、随時相互の研究の進捗状況を連絡し合い、また互いに批判的検討を加えることで研究全体としての整合性にも配慮する。最終年度に向けてこうした作業を継続し、各自の研究を具体的な作品論研究の論考にまとめ上げる準備を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は社会状況に鑑みて当初予定していた旅費の使用を一旦見送りとしたこと、またそれに代わって来年度以降の書籍購入計画を前倒しする予定だったところ若干の手配の遅れにより海外への書籍発注の一部について年度内の納入が困難となったことにより、年度末の時点で当初の予算額に対して未使用額が生じることとなった。以上のような理由により年度をまたぐ形になったものの全体として計画はおおむね順調に進行していることから、次年度には上述の書籍購入計画を中心とした物品費に回すかたちでこれら未使用額と併せ次年度配分額を使用する予定である。
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