2023 Fiscal Year Research-status Report
チェコ文学におけるグロテスクと笑い――人間存在の真相を開示するもの
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22K00470
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
石川 達夫 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (00212845)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 笑い / チェコ / 全体主義 / フラバル / シュクヴォレツキー / クンデラ / ハヴェル / ハシェク |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、全体主義時代の現代チェコ文学における笑い(=チェコ的笑い)の特徴を析出すべく、チェコ的笑いを他の時代の笑いと比較しつつ、現代チェコ文学の代表的作家4人――フラバル、シュクヴォレツキー、クンデラ、ハヴェルの作品における笑いの諸相を分析し、チェコ的笑いの構造を探った。そして、「チェコ的笑い」は、権力によって動かされる「大きな歴史」の重圧を受けて不条理な状況の中に生きることを強いられた人間が、自らを取り囲む不条理な状況と、その不条理の中に生きる自分自身を笑う、歴史のマルジナリア=欄外注における再帰的・自照的かつ自笑的な笑い、そして覚醒的な笑いであり、そこでは喜劇的なものと悲劇的なものが表裏一体を成していることを明らかにした。 また、このような「チェコ的笑い」は、ハシェクの有名な作品『良き兵士シュヴェイクの大戦中の経験(兵士シュヴェイクの冒険)』における第一次大戦的状況における笑いが、第2次世界大戦以後の時代において、とりわけ全体主義的な社会においては不十分なものとなり、ハシェク的な縦の眼差しにフラバル的な横の眼差しが加わり、そちらが主軸になったものであること、(全体主義時代における)「チェコ的笑い」は「シュヴェイク的な笑い」の伝統を引き、それに横の眼差しを加えることによってそれを発展させたものだとした。 更に、戦争や全体主義の時代ではなくとも人間は不条理な状況に陥りうる以上、不条理の中にいる自分(たち)から距離を取り自己を対象化して見る、再帰的・自照的かつ自笑的・覚醒的な「チェコ的笑い」は、大いに意味のあるものであり、「チェコ的笑い」は、不条理な状況に置かれた人間の精神の技術であり、一つの知恵でもあるとした。 以上の研究成果は、『人文科学年報』(専修大学人文科学研究所)第54号に「全体主義と笑い――現代チェコ文学における笑いの諸相と構造」として公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体主義時代の現代チェコ文学における笑い(=チェコ的笑い)の諸相と構造およびその意味を、かなり明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は残り1年だが、最終年には、現代チェコ文学の代表的な作家たちの作品に即して、「チェコ的笑い」をより具体的に分析し、その意味と機能をより深く探っていく。そのために、彼らの作品を集中的に読解・分析する。また、「チェコ的笑い」を惹起する重要な契機となっている、表象と現実との乖離から生まれる問題を、哲学的・社会学的にも探っていく。
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Causes of Carryover |
当初、海外調査を計画していたが、新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナ戦争や円安による海外旅費の高騰などで海外調査を実施できなかった。今年度も実施は難しい状況であり、その場合は、次年度使用分を、古くなった機器の買い換えや書籍の購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)