2022 Fiscal Year Research-status Report
翻訳におけるパラテクストとしての脚注 ヴィーラントの翻訳を中心に
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22K00478
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
加藤 健司 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (10577076)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 二元的翻訳論 / 古典作家の翻訳 / 翻訳者としてのヴィーラント |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、作家でありかつ翻訳者でもあったヴィーラントを18世紀啓蒙主義的翻訳と近代翻訳理論が説明する翻訳とを結びつける、いわば接続者として理解するために不可欠な準備として、まず18世紀から現代までの翻訳理論の整理を進めた。そのなかで特にゲーテのヴィーラントの翻訳にかかる発言を軸に、古代ローマのキケロの自身による翻訳についての発言から、19世紀初頭のシュライアマッハーの翻訳論までを貫く二元的翻訳論の整理に着手し、ほぼ終えることができた。研究対象は現代における翻訳ではないため、ベンヤミンの翻訳論については再度確認をしながら18世紀19世紀の翻訳論の綿密な整理は続けるが、本研究にあたってのさまざまな翻訳理論自体の整理は本年度において終了とする。 ヴィーラントの翻訳については、すでに研究開始前において検証を始めていたルキアノス翻訳(全6巻)に加えて、ヴィーラントの18世紀半ばのシェイクスピア翻訳と19世紀前半のティーク/シュレーゲルによるシェイクスピア翻訳の比較検討を開始できたこと、さらに、キケロの書簡のヴィーラント訳についても並行して調査を始められたことは本年度の大きな成果であった。 ルキアノス翻訳、さらに次年度以降着手したいホラチウス翻訳のより一層の理解のため、ルキアノスにもしばしば引用されるアリストパネスの喜劇について改めて語り手と読者/観客との関係を軸に確認するなかで、観客に向けて演劇の内容とくに政治的社会的側面を説明するパラバシスと呼ばれる箇所を、ヴィーラントの翻訳における脚注の機能と並行的なものとして取り上げる可能性を得たのも、思いがけない成果といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
18世紀の翻訳者/作家ヴィーラントによる翻訳作品を対象としているため、作品別研究に入る前に、まず18世紀から19世紀にかけての翻訳論を整理できたことは、今後の研究の展開にとっても土台を固める重要な作業であったと考える。 シェイクスピア『アテネのタイモン』のヴィーラント訳、ティーク/シュレーゲル訳、さらにシェイクスピア作品自体の題材になったと考えられる古典作家ルキアノスの『ティモン』のヴィーラント訳、そしてルネッサンス期におけるイタリアのボイアルド『ティモーネ』序文などを比較検証するなかで、ヴィーラント訳の独自性とその意義の確認を進められたこと、そして次年度には本テーマについて研究を文字媒体で発表する準備も進められたこと、それらも重要な進展であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、二元的翻訳論を翻訳にかかる軸足として、これまで本研究者が進めてきた小説における脚注研究、語り手と虚構の/実際の読者の関係などをヴィーラントの翻訳研究に応用すべく、ジェラール・ジュネットの指摘するパラテクストとしての脚注の解釈を発展させる必要がある。ジュネットは、脚注については簡単な分類をしているがその機能面については踏み込んでいない。パラテクストとしての脚注の機能面をヴィーラントの翻訳において確認しながら実証的に分析を進める。
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Causes of Carryover |
想定していた古書類が入手不可能であった、また年度末までに発注等が間に合わなかったため。次年度においても図書の探究を続ける。ヴィーラント以外のビュルガー、メーリケ、フンボルトらの翻訳実践についてもヴィーラントのそれらと比較研究を進めるため関連する洋書・和書の探究につとめる。また現在までの研究を雑誌発表するための準備も合わせて進めることとなる。
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