2022 Fiscal Year Research-status Report
文学の中のアイヌ民族の表象ーその変容と他の先住民文学との比較ー
Project/Area Number |
22K00494
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安元 隆子 日本大学, 国際関係学部, 研究員 (40249272)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アイヌ / 違星北斗 / 森竹竹市 / 川越宗一 / 鶴田知也 / コシャマイン記 / コタンの口笛 / 森と湖のまつり |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、アイヌ人と日本人の描いた文学に現れたアイヌ像について研究した。 特に注力したのは鶴田智也の『コシャマイン記』研究である。まず、史実と虚構の部分を明らかに区別した。そして、この小説の持つ、日本帝国主義に対する批判を明らかにした。児童向けの文章に鶴田の本音が隠されていると考え、アイヌの敗北の要素は日本にとっても同様に重要であると指摘している部分に着目し、確かな指導者の欠落が大事を招くという日本への警鐘を読み取った。そして、日本人のアイヌ搾取と虐待について、作品発表の10年ほど前に実際にあった新潟のダム建設に伴う朝鮮人労働者の虐殺死を告げる新聞報道と『コシャマイン記』末尾の表現の酷似を指摘した。 このほか、違星北斗と森竹竹市の詩歌を中心に、その民族観や「血」を巡る意識を明らかにした。共にアイヌの現状を憂いながらも「混血」を巡る意識は相反している。このような意識の諸相について、世界の先住民族の意識の諸相と比較しながら考察した。また、違星北斗についてはこれまであまり言及されてこなかった国柱会との関わりが、彼の精神形成に大きな役割を果たしていると考えられ、その実態について今後調査する予定である。そして、川越宗一の『熱源』とブロニスワフ・ピウスツキの実人生とを比較検討すべく、基礎的な伝記と小説とを比較した。 映画作品としては『コタンの口笛』『森と湖のまつり』を検証した。『コタンの口笛』の末尾部分はアイヌと日本人の関係性について大きな問題性を孕んでいることを指摘すべく、今後論文にする予定である。漫画作品については『ハルコロ』『ゴールデンカムイ』を中心に比較検討した。『ハルコロ』について、新たなアイヌ像の提示を評価しつつその限界性を明らかにした。『ゴールデンカムイ』は、アイヌ像の斬新さを指摘することができたが、全体については様々な歴史的事象が背景にあるため、引き続き研究を続ける。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は日本語によるアイヌ表象を研究する予定であったが、小説、詩歌、映画、漫画における予定していた主要作品について、ほぼ計画通りに分析、研究を進めることが出来たため。今後はこれらの研究成果を論文にして発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度後半はロシアにおけるアイヌ表象の研究を行う予定であったが、現在、ロシアのウクライナ侵攻によりサハリンへの渡航ができず、文献収集や現地視察が難しいため、研究の順番を変えて、オーストラリア、または、アメリカの先住民族の現状視察と文学研究を先に行うことを検討している。 状況が悪化し、ロシア関係のアイヌを描いた文学が研究できない場合は、台湾の先住民族文学に変更する可能性がある。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、ノート型パソコンの購入を予定していたが、まだ使用可能と判断し、購入を延期し、パソコン購入予定金額を図書購入費に充てた結果、次年度繰越金が発生した。 繰越金は次年度、ロシアの代わりにアメリカ、または、オーストラリア等の調査・視察を先にする可能性があるため、旅費に補填する予定である。
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Research Products
(2 results)