2023 Fiscal Year Research-status Report
文学の中のアイヌ民族の表象ーその変容と他の先住民文学との比較ー
Project/Area Number |
22K00494
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安元 隆子 日本大学, 国際関係学部, 研究員 (40249272)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | アイヌ / 鶴田智也 / コシャマイン記 / 違星北斗 / 川越宗一 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は計画していたロシアへの渡航が昨年度に引き続きままならなかったため、日本文学の中のアイヌ表象を研究した。 まず、研究の成果として、昨年度より調査考察していた鶴田知也の『コシャマイン記』について論文にまとめ発表した(「鶴田知也の帝国主義批判と「智慧」の諸相 : 『コシャマイン記』を中心に」『立教大学日本文学130号』)。本論文では、史実と小説世界を比較した上で、特にコシャマインの死の描写について、当時の新聞報道から在日朝鮮人労働者虐殺事件のイメージが投影されている可能性があることを明らかにした。また、「智慧」という言葉に注目し、『コシャマイン記』前後の作品を検証して鶴田の求めた真の智慧とはどのようなものかを考察した結果、そこには帝国主義の道を歩む日本への警鐘があったことを明らかにした。同時に、そのような主張を児童向けの言葉に変換するなど、官憲の目をかいくぐるための鶴田の戦略も明らかにした。 次に、違星北斗の生活した小樽を実地踏査し、特に生家跡付近と鰊漁に関する史跡によって作品理解を深めることができた。また、違星の東京からの帰郷について、宮沢賢治の帰郷との相似を考え、国柱会との関りについて残された違星のノートを調査し考察した。 また、『コタンの口笛』の小説と映画を比較し、両者の作品研究を行った。その結果、特に映画の末尾部分の抱える問題について、今後論文化して指摘する予定である。映画が封切られ益々人気が高い『ゴールデンカムイ』については、物語の持つ男性中心的要素や国家に回収されるアイヌなどの問題について考察した。 アイヌイメージの大きな転換を告げる小説『熱源』については、基礎的作業として史実との比較をするため、ヤヨマネクフとブロニスワフ・ピウスツキについての伝記を精査した。これらを基に、小説の熱源の在りかがどこにあるのかを考察した。今後、その結果をまとめ公表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシア渡航がウクライナ戦争の影響で禁じられているため、ロシア極東でのアイヌ及び先住民族に関する文学の実地調査の計画を変更せざるを得なかった。 そして、ロシアで毎年実施されていた国立サンクトペテルブルグ大学東洋学部の日本研究学会が本年度はオンラインでも開催されず、またほぼ毎年参加していた上海の同済大学はじめ日中の研究集会も開催されなかったため、予定していたこれまでの研究成果をまとめ発表する機会を逸してしまった。 個人的な理由としては、諸事情により、今年度、別のテーマの博士論文をまとめているということがある。これまでの研究成果を基にした博士論文ではあるが、現時点の新たな視点に基づく部分を添加する必要があり、その調査研究にかなり時間を取られてしまった。博論と並行して本研究を遂行しているために、本研究の研究成果を論文にして公表することができなかった。 このように、ある程度研究は進めることはできたとは思うが、それをまとめ、成果として公表するまでには至らなかった部分が多いため、「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度までに調査、考察した結果を論文にして発表する。 本年度もロシアへの渡航は難しいと考えられるため、ロシアに関する資料はできる限りインターネットで収集する。 また、ロシア極東の先住民族に関する文学研究の部分を、台湾の先住民文学に変更することも視野に入れる。
|
Causes of Carryover |
ロシア極東への渡航調査が渡航禁止勧告によりできなかったため。また、これまで参加していた海外での学会が本年度は国内開催やオンライン開催、または中止になったため。 できるだけインターネット等で資料を収集する予定だが、研究対象に台湾の先住民民族の文学を加えることも検討しているため、渡航先を変えて実地調査することを考えている。 また、2024年度、2025年度と海外の学会に参加予定であり、ネイティブアメリカンに関する調査のために渡米予定であるが、研究計画段階に比べ円安が進んでおり、当初の計画より出費が大幅にかさむと思われるため、繰越金はその際、使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)