2022 Fiscal Year Research-status Report
中世仮名文書の文体の研究─日本語史資料としての価値と特色の解明─
Project/Area Number |
22K00581
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
辛島 美絵 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (60233996)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 仮名文書 / 古文書 / 文体 / 接続詞 / 接続助詞 / 鎌倉時代 / 身分 / 性別 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中世の仮名文書(仮名が使用されている古文書)の資料性と価値を解明しようとするものである。鎌倉時代の仮名文書の文接続法等に着目し、漢字専用文書や、中世以前の古文書以外の資料と比較することによって、仮名文書の文体の特色を明確にすることを目指す。【2022年度】の実績は以下である。 ①調査対象の仮名文書と漢字専用文書を選定し、パソコンを使用して、文接続の形式を調査・整理した。 ②底本は文書の原本に基づくことが重要であるため、東京大学史料編纂所と各文書の所蔵者の許可をえて、原本の写真を収集した。 ③古文書として同じ内容を表現すべき部分において看取される相違は、表現上の特色と認定できる可能性が高いことから、古文書様式上の定型的部分の文章に着目し〈文書の仮名の多寡と接続表現との関係〉ならびに〈仮名主体文書にのみ表れる接続表現とその文章〉について調査を実施した。調査の結果、次の事項が明らかになった。 (1)〈仮名主体文書〉と〈漢字専用文書〉において、独自の接続表現を使用する例が多い。(2)〈仮名主体文書〉でのみ使用される接続表現は接続助詞が多い。対して、〈漢字専用文書〉〈漢字主体文書〉でのみ使用されるのは接続詞ばかりである。(3)接続表現の用例数(延べ数)は〈漢字専用文書〉の方が多いが、接続表現の種類(異なり数)は〈仮名主体文書〉の方が多いことから、〈仮名主体文書〉の接続表現は最も多彩だといえる。(4)〈仮名主体文書〉は後半期において、文書数、当該定型使用率、接続表現の異なり数、独自の接続表現の割合が増大する。(5)当該定型の接続表現に独自のものを用いる〈仮名主体文書〉は、文書の文章全体において特定の共通する特色をもっており、その特色は書き手の身分や性別、居住地域とも関係がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の計画は、以下の①~③であった。このうち①の出張調査は、所蔵者により原本の写真の複写・郵送が認められたため実施しなかったが、原本調査の目的は遂行できた。その他はすべて計画どおりに進行することができた。よって、おおむね順調に進展していると判断した。 【2022年度】の計画 ①調査対象の仮名文書と漢字専用文書を選定し、パソコンを使用して、文接続の形式を調査・整理する。底本には文書の原本写真を使用するため、原本の写真を収集・閲覧のために出張調査し、画像はパソコンのデータとして保存する。写真が図書として公刊されているものは購入する。 ②古文書として同じ内容を表現すべき部分において看取される相違は、表現上の特色と認定できる可能性が高いことから、調査箇所は、古文書様式上の定型的部分の文章に着目し、仮名使用率が高い文書にのみ表れる表現上の特色を漢字専用文書との比較から抽出する。 ③表現上の特色としては、文接続法や文終止法等の構文・文章論上の事項に着目する。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の①~④の計画で研究を推進する。 【2023年度】①2022年度の成果として抽出した仮名文書の表現上の特色について、購入した日本史関係図書を参考にして、文書の作成年・書き手・地域・用途ごとに整理し、漢字専用の文書も含めた古文書の文章全体中での位置づけを明確にする。②古文書の原本写真の調査・収集は最終年度まで継続して実施する。 【2024年度(最終年度)】 ③仮名文書の表現上の特色について、それがいつ頃、どのような文章の影響で成立したのかを解明するために、中世以前の古文書ならびに、古文書以外の資料(変体漢文資料、仮名文学資料、説話や軍記などの和漢混交の文学資料等)と比較・検討を行う。④以上の研究経過をもとに、仮名文書の文章の「書き言葉」としての文体の成立過程、当時の日常の「話し言葉」の反映度と反映箇所を明確にし〈仮名文書の価値と活用方法〉と〈本研究における資料研究方法の適切性〉を実証的に示す。
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Causes of Carryover |
令和4年度には古文書の原本の調査を実施する計画を立て、旅費を使用する予定だった。しかし、当年度の調査対象文書については、所蔵者より東京大学史料編纂所での原本写真の複写許可がもらえたので、複写写真の郵送が可能となり、出張をとりやめたのが理由である。 次年度に生じた使用額は、令和4年度と同じく古文書の原本写真の複写許可があった場合には複写費用や関係資料の購入費に使用し、複写許可がでなかった場合には閲覧調査のための旅費として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)