2022 Fiscal Year Research-status Report
古代日本語述語体系記述のためのテンス・アスペクト・モダリティ・証拠性概念の再検討
Project/Area Number |
22K00595
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仁科 明 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70326122)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 叙法形式 / 未然形 / 非現実事態 / 推量 / 連用形 / 現実事態 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、古代語の述語の体系と、広義の叙法にかかわる述語形式があらわす意味のカテゴリについてさらに理解を深めるべく、(a)上代の日本語における未然形につづく広義叙法形式ー「ず」「む」「まし」「じ」ーの用法の検討および相互関係の考察と、(b)連用形につづく広義叙法形式-「き」「けり」(と「けむ」)-の用法に関する先行研究の検討および用例の予備調査を行なった。(a)であつかう未然形につづく諸形式は、打ち消しやモダリティにかかわるとされるものであり、(b)であつかう連用形につづく形式はテンスにかかわるとされるものである。文法カテゴリの検討をめざす本研究にとっても重要な意味を持つ。 (a)の点については、(研究代表者がかつて行なった意志・希望系の用法に対する整理を補完するかたちで)認識・判断系の用法に重点をおいて調査と考察を行ない、問題となる四形式が「非現実事態-臆言」の形式-非現実事態を想像的に述べる形式-として理解され得ること、四形式の棲み分けもそのような理解の延長線上で可能であることを確認した。また、意志・希望系の用法についても、(とくに「まし」に関して)これまでの研究代表者の理解の不十分であった点を認識し、修正するにいたった。また、先行する叙法論的な述語論との関係理解も深めることが出来た。 (b)の点については、次年度以降の研究のための準備作業の意味で、研究代表者の持っている考えと、先行研究の摺り合わせの作業を中心に研究を行ない、いくつかの重要な論点を確認することが出来た。並行して、上代・中古の資料の用例の調査をすすめた。 (a)(b)どちらの点についても、年度内に成果の公表にはいたらなかったが、考えのまとまった(a)の点については、次年度に論文化して公表する予定であり、(b)の点についても、次年度中には調査の作業を完了し、考えをまとめることを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初のもくろみでは、今年度中に、「研究実績の概要」欄の(a)の点-つまり、未然形につづく広義叙法形式(具体的には「ず」「む」「まし」「じ」)の認識・判断系用法の検討と理解-については、議論を固めた上で、論文化までを行なう予定であり、(b)の点-つまり連用形につづく広義叙法形式(具体的には「き」「けり」と「けむ」)の検討-についても、前提となる先行研究の検討と用例調査の作業を完了させ、議論を固める段階にすすむ予定であった。 しかし、予期せぬ事情で夏季休暇中・休暇後に十分な時間をとれなかったこともあり、(a)(b)どちらの点についても、当初の予定よりすこしずつ作業が遅れている。(a)については当初考えていなかったような論点にまで考えがおよび、四形式への理解は深まったのは事実である。また、先行する叙法論的述語論-具体的には大鹿薫久氏・野村剛史氏・尾上圭介氏らの議論-との関係への理解を深めることが出来たこともプラスの成果であると考えている。しかし一方で、論点の広がりもあって、その研究成果を論文化し公表するにはいたらなかった点に不満をのこす。また、(b)の点についても、主要先行研究の論点は確認でき、新たな視点を見出せた部分もあるが、検討できていない研究が残っており、上代・中古の用例調査も予備調査の段階にとどまって、当初の目標には到達出来なかった。研究代表者のアイデアと各形式の用例の実際との摺り合わせも十分には行なえていない。 論点の拡大などプラスの点を考えても、全体としてはやや遅れていると判断せざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究はやや遅れているとはいえ、今年度については、不測の要因によるところが大きい。基本的にはこれまでのペイスをまもって研究をすすめることで、当初のもくろみへのキャッチアップも可能であると考える。 「研究実績の概要」欄の(a)にかかわる今年度の成果のうち、「ず」「む」「まし」「じ」の認識・判断系の用法の理解と四形式の位置づけに関する議論については、ひきつづき論文化の作業を行ない、次年度中に公表することを目指している。「研究実績の概要」欄の(b)の点にかかわる議論については、今年度中に完了しなかった「き」「けり」「けむ」にかんする先行研究の検討と用例調査を、次年度前半中には終え、後半には議論を固める作業に入り、論文化までを実現したいと考えている。また、(a)の点についての研究の中で得た、先行する叙法論的述語論との関係についての理解についても、ひきつづき考察をすすめ、あらためて議論をまとめたい。 また、次年度は(b)の延長線上で、「けり」に関する議論の中でしばしば問題にされてきている「古代語の語りの問題」や「証拠性の問題」について-これらの点を「けり」の理解に関連付けるのが妥当かどうかという点もふくめて-議論を進めることを考えている。これらはそれぞれ重い問題であるが、本研究の目的-述語にかかわる文法カテゴリの再検討-や、研究代表者の当面の研究目標-古代語の叙法体系の理解-のためには必要な論点である。
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