2022 Fiscal Year Research-status Report
歴史学習・遠隔協働学習を通した平和共存のための日本語教育研究
Project/Area Number |
22K00668
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松永 典子 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (80331114)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
NURHAIZAL AZAM 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (10816721)
松岡 昌和 大月短期大学, 経済科, 助教 (70769380)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | 平和学習 / 歴史学習 / 日本語学習 / 内容言語統合学習 / 協働学習 / 国際遠隔協働学習 / 戦争の記憶 / 日本語教育史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本語学習・歴史学習を通して日本人学生と日本語学習者の相互文化理解をいかに進めることができるかを実証的に明らかにすることである。こうした実証研究を通して、アジアの平和共存に向けた言語・文化・歴史学習の関連付けをめざしている。そのために、令和4年度は、①実証研究の方向性づけのための文献研究、②個人の歴史認識の調査、歴史教科書の比較分析、③日本語教材の開発、④教材を使った交流授業を含む教育実践、⑤科研メンバーの講演によるマレーシア東方政策45周念記念セミナーを行った。①まず、歴史教育、平和教育、日本語教育、それぞれの領域における戦争の記憶をめぐる課題を確認したうえで、日本語教育・歴史教育研究の連携可能性について考察した。次に、諸外国と日本の言語教育と歴史教育との結びつき方の違い、歴史を題材とした日本語教育実践の先行事例等で扱われている「内容」を分析した。これらの分析を通して日本人学生・日本語学習者がともに学ぶ中で歴史認識の違いに気づき、相互文化理解を図るために必要な視点や方法論について試論的な考察を行った。マレーシアの日本語教育史の個人史や伝記・手記などを事例として分析した結果、戦争の複雑性や平和の多義性について学習する「内容」として、南方特別留学生や占領下の日本語学習などに関する伝記や手記、口述資料が活用できる可能性が提示された。②日本による占領の記憶の相克が残るマレーシアを事例に、歴史教科書の比較、学習者要因と言える社会的通念や歴史認識の調査を暫定的に行った。③これらを踏まえた日本語教材を試行的に開発した。④開発した教材を用い、表現活動・思考活動を伴う歴史学習を行った。今後、さらに教育実践及び歴史認識調査のデータを積み重ね、それらを基に歴史認識に齟齬が生じる要因を多角的に分析し、相互文化理解を再構築する視座や平和創造に向けた異文化理解の方法論を提示する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、以下のように、Ⅰ文献調査・教科書分析、Ⅱ教材開発、Ⅲ協働学習、Ⅳ歴史認識調査・分析、Ⅴ研究発表、Ⅵ論文投稿・論文集刊行の項目を立て、以下の内容を計画していた。これに対し、それぞれ進捗の多寡はあるものの、おおむね順調に計画は実施されてきたと言える。 Ⅰ文献調査・教科書分析:歴史教科書・歴史教育からの影響を検証するため、マレーシア(主にマレー系、中国系)と日本の中学・高校の歴史教科書における日本占領に関する記述を経年的に比較分析するという計画を立てていた。これに対し、マレー系、中国系の歴史教科書は収集し、当該箇所の翻訳を行った。日本側の教科書の情報は収集しており、比較分析は令和5年度以降の検討課題として取り組む。 Ⅱ教材開発:先行実践の概観や歴史認識分析調査等を元に暫定的な教材は開発している。今後、実践と研究データを蓄積しつつ、教材をアップデートしていく。 Ⅲ協働学習:マレーシアの日本語学習者との協働学習を交えた教育実践は令和3年度から施行的に開始し、令和4年度も引き続き、実践を行った。令和3年度の実践については既に発表済であるが、令和4年度の実践については分析中である。 Ⅳ歴史認識調査:歴史教育の内容や歴史認識、マレーシアの社会的通念についてアンケートやインタビューを行い、歴史認識の形成要因を分析する。 Ⅳ歴史認識の分析は、日本側は大学生を対象に進めている。マレーシア側は、共同研究のメンバーに対するインタビューを実施した。分析は令和5年度にかけて行う。Ⅴ研究発表:ヨーロッパ日本語教育シンポジウムにて行った。Ⅵ論文投稿・論文集:論文投稿は、第25回『ヨーロッパ日本語教育シンポジウム』、『新世紀人文学論究』第7号で行い、2022年度は後者について論文集が発行された。前者は2023年度発行の予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
Ⅰ文献調査・教科書分析、Ⅱ教材開発、Ⅲ協働学習に関しては、今後、実践・研究を実施しながらデータを積み重ねていき分析・考察を進める。 Ⅳ認識調査に関しては、試行的な調査を行い、それをもとに調査項目の選定は行っているが、英語だけでなく、マレー語の翻訳を行う必要があり、令和5年度にマレーシア側のアンケート調査を進めていく。マレーシア側のインタビューに関しては、今後、アンケート調査の結果を見ながら分析を進めていく。 Ⅴ研究発表:本研究が参照点としているヨーロッパの日本語教育の現状調査を兼ね、R5年度は、引き続き、ヨーロッパ日本語教育シンポジウムでの研究発表を予定している。共同研究者とのパネル発表については、令和5年度に実施する協働授業の内容について報告することを検討している。 Ⅵ論文投稿・論文集:論文投稿は、第26回『ヨーロッパ日本語教育シンポジウム』で行う予定である。論文集については、計画では今年度発行を予定していたが、執筆及び準備には時間がかかることを考慮しておらず、拙速な計画となっていた。このため、今年度より各自のテーマを決め、十分な時間をとったうえで執筆していくという方向に軌道修正をはかる。
|
Causes of Carryover |
令和4年度前半は、感染症拡大防止の観点から計画していた歴史教科書の実地調査に行くことができなかったこと、RA(リサーチアシスタント)の雇用を固定期間ではなく、作業を必要とする時だけに限定して使用したことから、旅費及び人件費・謝金が予定よりかからなかった。このため、使用額が請求額を下回る状況となった。令和5年度は、ようやく海外への渡航も可能な状況になってきたため、当該助成金と次年度請求額とを併せて予定していた海外での調査や研究発表などの活動も行える。ただし、航空燃料費の高騰があるため、繰り越した分を旅費の一部として有効に活用する予定である。
|
Remarks |
「マレーシア東方政策40周年記念特別セミナーのご報告Look East Policy:過去、現在、将来の展望」青年海外協力隊マレーシア会 会報21号pp4-5
|
Research Products
(8 results)