2023 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦期日本の「大東亜共栄圏」政策の国際比較に関する研究
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22K00852
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安達 宏昭 東北大学, 文学研究科, 教授 (40361050)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 日本史 / 近現代史 / アジア太平洋戦争 / 地域統合 / アジア / 東南アジア / 国際比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二次世界大戦期の「大東亜共栄圏」を「広域圏」として捉え、その態様を世界史上のなかに位置づけて、圏域としての独自性や特徴を把握することを目的としている。 本年度の研究業績は、以下の2点である。 第一に、大東亜共栄圏構想を、国立社会保障・人口問題研究所が所蔵する資料を利用して、人口問題・人口配置という側面から再検討を加えた。構想を中核で立案した企画院では、「大和民族」の増殖と配置が極めて重要であると考えていたことが確認できた。大東亜建設審議会の答申原案では、南方では「堕落」するので配置は「主として指導者」のみとし、「新しい」大陸であるオーストラリア・ニュージーランドに注目し、多くの「大和民族」を主に農業に従事するものとして配置する、さらに人口過剰地域であった中国にも移住させるという具体的な計画が立てられていた。 第二に、イギリスの国立公文書館に資料調査に行き、イギリス陸軍省が、かつて自らの植民地であったマレーシア・シンガポールを占領した日本の統治方法や民族政策について分析している資料を発掘した。これら資料は、かつての植民地宗主国のイギリスが、新たに支配を展開する日本の統治政策の問題点を明確に指摘しており、両者の支配政策の重点の違いが把握できる極めて興味深いものである。イギリス陸軍省は1943年12月の段階で、新聞報道などから得られる情報から、日本の占領政策の問題点・矛盾点を明快に指摘し、今後の動向を注視していた。実際、イギリス陸軍省が指摘した問題点から、日本の占領支配は綻びを見せ始め、その矛盾が拡大して、やがて支配を継続することが困難になっていく。その綻びは、現実的な統治を実施したイギリスに対する批判に基づいて、日本が「大東亜共栄圏」という「理念」を打ち出したことや、独立国タイへの配慮から生じてきており、日英の支配方法とその帰結の比較を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アフターコロナの物価上昇、戦争による原油高騰・円安などから航空機運賃を始めとする旅費が高騰し、予定していたヨーロッパでの2回の史料調査が1回となり、調査研究はやや遅れている。 今年度は、イギリスでの調査が実施できて、「英領マラヤ」(現在のマレーシア)に関する日英の支配の比較ができたが、オランダには行くことができず、オランダの植民地であった「蘭領東インド」(現在のインドネシア)の資料調査はできなかった。その代わり、東京にある国立社会保障・人口問題研究に所蔵されている資料を調査・分析することにより、人口問題と人口配置、とりわけ人口配置計画が大東亜共栄圏構想においては重視されてことがわかり、ドイツが考えていた生存圏構想と比較するための基盤づくりができた。イギリスと日本国内の資料収集により、比較研究をある程度は進めることができたものの、充分な史資料の調査・収集とは言えず、当初の計画に対してやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の3点を中心に研究を推進していきたい。第1に、円安の昂進・物価の高騰から、ヨーロッパでの調査を長期間行うことは困難と判断して、オランダでの調査を見送る。つまり、戦前イギリスが植民地とし、戦時期に日本が占領したシンガポール・マラヤの支配について比較研究を行うことに絞り込みたい。ヨーロッパ調査の代わりに、シンガポール・マレーシアに行き、現地にある当時の史跡を調査するとともに、シンガポールやマレーシアの国立公文書館や華社研究センター集賢図書館などを訪問し、日本軍政期の資料や証言を収集し、占領政策の実態を分析する。そして、これらをイギリスで収集した史料や日本側の史料と照合して、マレーシアとシンガポールにおける日本軍政の展開と現地社会・経済に与えた影響を分析する。 第2に、今年度も行っていた、日本以外の「経済圏」についての研究を、英語論文を中心に収集を継続して、その特徴を把握したうえで、これまで行ってきた「大東亜共栄圏」政策と比較を実施する。その際には、今年度学んだTrans-Imperial StudyやNew Imperial Studyの理論も活用する。 第3に、日本国内において、日本軍政が進展した占領後期に関する資料を探索・調査・収集して、軍政全体の展開過程を明らかにする。 そして、上記の研究をふまえて、日本軍政をイギリスの植民地支配と比較し、その統治方法の継承と断絶を分析して、日本による占領支配の特色を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、予定していたヨーロッパでの史料調査・収集が、ヨーロッパの物価高、原油高騰・円安などによる航空機運賃・宿泊費の高騰のため、1回に限定せざると得なかったことが大きい。また、実施した分析や研究が、これまで購入していた史料集や図書館に所蔵されていた資料などを使用して効率よく行うことができたため、経費支出が抑えられたためである。 使用計画としては、第1にシンガポール・マレーシアの国立公文書館や資料所蔵期間での資料調査に、出張する旅費に使用する。この旅費が円安から、かなりの高額になることが予想される。第2に、国内での資料調査への出張の旅費として使用する。第3に、研究代表者が本研究を進めていくうえで必要となる書籍や資料集の購入費、文具費に使用する。
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