2023 Fiscal Year Research-status Report
明治時代中後期における農業奨励システム構築過程の解明
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22K00861
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
國 雄行 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (60234457)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 内務省期の農政 / 勧農政策 / 欧米農業の導入 / 勧業諸会 / 種子交換会 / 内国勧業博覧会 / 植物試験場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は明治前期における農業奨励システムの構築過程について、内務省期に絞って明らかにし、「内務省期(明治六年末~一四年)における内外蔬菜の普及政策」を執筆し(論文主題は「明治前期における内外蔬菜の導入・普及政策1」)、次の5点を明らかにした。 ①内務省勧業寮は適地適作の方針に従い、明治初期より内外植物を取り寄せて試験するとともに各府県にも頒布して、その適性を探ろうとした。勧業寮(勧農局)は連年の種苗頒布の経験を踏まえて試験地は5県以上、試験期間は2~3年に設定する等、試験方法を具体化したが、種子の変性という重要な問題に直面した。②内務省勧農局は国内各地の著名蔬菜を収集して普及させようと考え、三田育種場では内国種と外国種の栽培、購入、売却が行われ、同場で開催された種子交換会では内国種の種子を中心に交換・売買された。③明治10、14年に開催された内国勧業博覧会では、国内各地の蔬菜や洋種蔬菜(種子や写生等を含む)を出品する意欲的な農業者の存在を確認でき、政府はこれらの出品者に褒賞を授与して奨励した。④内務省勧業寮は内外蔬菜の普及をめざして各府県に種苗を頒布し、これらの種苗が各府県の試験場等で積極的に試作された。 以上の諸策を分析した結果、内務省勧業寮の蔬菜種苗の頒布は外国種に重点が置かれたが、勧農局改組以後は著名な内国種の普及がはかられ、三田育種場では外国種と同様に内国種も栽培され、種子交換会等では内国種を中心に交換・売却されたことが明らかとなった。本稿により、内務省期の勧農政策は欧米農業一辺倒であるとの従来の説を見直すことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度、5年度におけるコロナ流行のため、史料調査を予定通り行うことができなかった。このため、進捗状況にやや遅れが生じる結果となった。 交付申請書の「研究の目的」に記したように、本研究の目的は次の3点を明らかにすることである。(1)農商務省は明治前期に内務省が欧米を模範として導入した農談会等を活用して農民たちを国家に取り込むとともに、農事通信や農区制度により、農業の現場を把握しようとしたこと、(2)農商務省が欧米農具と在来農具の長所短所を取捨折衷して、農作業の効率を高めようとしたこと、(3)農商務省は米作困難地には、欧米から導入した果樹等の商品作物を移植し、気候風土に適合した農業を推進して生産力を向上させようとしたことである。 本年度は(3)の調査の一環として、特に内国種・外国種蔬菜の導入過程について明らかにするため、種苗に着目し、内務省における種子交換会の開催や、府県への種苗頒布、府県間の蔬菜の移出入を追究した。このため、東京都公文書館に赴き、『回議録』、『理事年表』等の史料を調査し、東京府が移出入した蔬菜について明らかにした。また、内務省以外にも、これら蔬菜の種苗を供給した業者に着目し、川田利八、谷本清兵衛、タキイ種苗の祖である瀧井治三郎の活動を調査し、この当時は、とくに川田が官庁と組んで盛んに活動していたことを明らかにした。また、東京府が練馬大根等の著名蔬菜を移出し、移出先の県では優良蔬菜を栽培して県下の作物として育成しようとしていたことが判明した。 また(1)に関し、明治期の農地の区画整理に着目し、金沢県に出張し、金沢ふるさと偉人館において高多久兵衛の事蹟について調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の推進については、交付申請書の「補助事業期間中の研究実施計画」で記したように、明治中後期の農商務省の政策について、①欧米農具の導入と開墾政策の分析、②欧米作物の移植とその定着に関する分析、③農商務省が在来農業も重要視したことの立証、④欧米農業制度による農業奨励システムの構築について実証していく予定であり、令和5年度は、欧米農業が積極的に導入された北海道・東北地方を中心に①、②、④について分析する予定であった。しかしながら、コロナ禍のために、各大学の図書館や博物館等における調査を見合わせ、東京都公文書館や国立国会図書館において調査を行った。 令和6年度は①、②に関連し、まず、北海道を中心とする北日本の調査を重点的に行う。特に帯広周辺や旭川以北の開拓事業における欧米農業の導入に関する資料調査を行いたい。次に東北地方の開墾地である福島県安積、青森県三本木等における欧米農業の導入に関する資料調査を行う予定である。さらに、③の在来農業の重視を証明する資料として 流通経済大学図書館が所蔵する祭魚洞文庫の中の農書関係の資料を調査、収集する予定である。 そして、令和7年度は、欧米農業とともに在来農業も重視された関東地方、そして農業先進地である近畿・中部等、西日本における①~④を分析する予定である。特に在来農法の調査として福岡農法に着目し、福岡県の農業関連施設において調査を行いたい。
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Research Products
(1 results)