2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K00873
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大隅 清陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80252378)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 律令制 / 公民制 / 大化改新 / 大宝律令 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間2年目にあたる令和5年度には、本研究課題の主たるテーマである東アジアにおける「律令制」の位相と、「律令制」と「公民制」に関わる内容の国際学会での発表2件に加え、研究代表者の研究テーマの一つである律令制と礼制の関係に関わる書評1点を公表したほか、研究成果を外国語で公刊する準備を進めた。また、律令制成立期の地方木簡を出土した徳島県徳島市観音寺遺跡をテーマとした木簡学会徳島特別研究集会「観音寺・敷地遺跡の木簡からみた古代の地域社会」に参加し、出土木簡や遺物の検討と、遺跡の現地踏査を行った。 大韓民国北東アジア歴史財団が11月に主催した国際学術会議「2023年欧米と東アジアの歴史認識学術会議」(開催地:大韓民国ソウル市)で行った報告「日本の教科書における東アジア古代史の記述と認識-法典整備の評価をめぐって-」では、日本の歴史教科書で大化改新から大宝律令の制定にいたる法典整備が「律令国家」の成立の基準として重視されていることに注目し、東アジアおよび明治以降の日本古代史研究における「律令制」の位置付けとその問題について論じた。また、慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団(大韓民国大邱市)から、国外の研究者を招聘して行う専門家招聘講演を依頼された。12月に「これからの日本律令制研究」と題する講演をZoomによるオンラインで行い、東アジアの律令制研究をめぐる諸問題を、本研究課題のテーマである公民制・民衆支配や、日本・韓国の古代木簡の比較も含めて論じている。 いずれも、本研究課題が日本との比較研究の対象とする韓国で行われたものであることに加えて、研究代表者の研究成果を海外の研究者に初めて公表し、研究交流・意見交換を行う貴重な場となり、韓国古代史研究者の知己を得ることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
韓国で行った講演2件は、いずれも本研究課題と密接に関わっているが、特に慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団の専門家招聘講演「これからの日本律令制研究」では、明治以来の日本法制史や昭和戦前期に坂本太郎が確立した律令制度史研究が、大化改新以降の日本律令制の形成過程を、唐律令の体系的な継受と同一視してきたことを問題とし、日本の律令制を、魏晋南北朝から隋代にかけての律令制を朝鮮半島経由で継受した「プレ律令制」と、日本令の編纂過程で唐令の体系に準拠して記述された「狭義の律令制」の二層構造としてとらえるという研究代表者の見解を紹介し、「プレ律令制」の一部として、律令制的な土地・人民支配を媒介するミヤケ制以来の「稲の支配」が機能していたという見通しを述べた。討論の場では、特に「プレ律令制」という概念と韓国古代史における「律令制」の考え方との関連について、活発な意見交換をすることができた。 また、『唐代史研究』26号に書評「浜田久美子著『日本古代の外交と礼制』」が掲載された。同書は、研究代表者が旧著『律令官制と礼秩序の研究』(吉川弘文館、2011年)で律令制を礼制との二元構造として捉えたことを批判的に継承し、外交における礼秩序のありかたを律令に規定されない外部をも含めて検討しようとするものであり、公民制を主題とする本研究課題とは研究視角が異なるが、改めて日本律令制の特質についての考察を深め、著者とも私信の形で意見交換を行った。 木簡学会徳島特別研究集会「観音寺・敷地遺跡の木簡からみた古代の地域社会」では、同遺跡の木簡や遺物、遺跡の現状を検討することで、7世紀の地方官衙と初期国府の関係についても新たな知見を得ることができた。 以上の理由から、全体として、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団からの招待により、令和5年12月に行った専門家招聘講演「これからの日本律令制研究」については、その後主催者より、慶北大学校人文学術院の機関誌『東西人文』への投稿の依頼があった。既に韓国語への翻訳、査読を終え、今年度中に掲載の予定となっているが、韓国学会との一層の学術交流が期待される。 また、令和6年5月26日(日)開催の歴史学研究会2024年度大会・古代史部会Ⅱでは、上村正裕氏の報告「平安貴族社会と氏-氏寺・氏社を中心に-」に対するコメントを行う予定で、大宝律令の施行によって律令制的なウヂが成立したことを公民制や官僚制の成立と絡めて論じるとともに、それが8~9世紀にどのように変質してゆくのかを考察したいと考えている。 ウヂと律令制の変質の問題を扱うものとしては、8月末に山川出版社より単著書『日本史リブレット人14 菅原道真 神になった天才詩人』の刊行を予定し、現在、校正および解説原稿の執筆など、最終の作業を行っている。道真は9世紀後半に活動した人物であるが、著書の冒頭では、大化以前の土師氏が、律令制の導入を契機としてどのように菅原氏という新興官人家となり、道真という文人政治家を生むことになったのかを詳細に論じている。 年度の後半においては、律令制的な公民支配の成立を、研究代表者の提唱する「プレ律令制」の概念、特に「人の支配」と「土地の支配」を媒介する代制を「稲の支配」に注目して検討し、令制前のミヤケ制との連続面と不連続面から考察するという課題について、論文の執筆という形で取り組んでゆく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)購入を検討した図書の刊行の遅れ等のため、若干の繰り越しが生じた。 (使用計画)購入を予定していた図書の刊行が確認され次第、購入費に充てる予定である。その他については、現在のところ当初の計画通り研究が進んでいるため、研究計画調書の予定にそって使用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)