2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K00905
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
原田 正俊 関西大学, 文学部, 教授 (40278883)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 中世後期仏教 / 女性と仏教 / 尼五山 / 景愛寺 / 無外如大 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、尼寺関係史料の調査を行い、特に京都宝鏡寺文書の調査を進めた。現存の宝鏡寺文書中には、尼五山第一位であった景愛寺関係の文書がいくつか含まれており、これらの読解と分析に努めた。関連する中世後期の日記史料も検索して景愛寺の実態解明を行った。景愛寺には無外如大が無学祖元から伝法の信として伝えられた法衣と頂相が伝来していたが、これら聖遺物と言うべき物の相承過程と歴史的な意義を考察した。 これらの法衣と頂相は、如大の門派において仏法を相承した有能な人物(器量の人)に相伝されるのが規程であったが、次第に後継者難となっていく。この背景には、中世後期社会における尼僧集団の在り方に問題があり、尼僧の修道体制が不十分であることを明らかにした。洛中洛外の主要な尼寺には、室町殿の差配で天皇家・親王家・足利家・大名家の娘が入寺することが多く、多くは幼少の入寺であった。これにより自然、尼寺は御所生活の場となっていく。こうした環境では姿こそ禅や浄土宗の尼僧とはなるものの、周囲には女房から出家した女性たちも仕える生活であった。こうなると、如大のような参禅に励み禅僧と問答を交わすような尼僧は育成されることは難しくなっていったのである。 また、景愛寺が幕府が指定した尼五山の一つとして官寺になることによって他門派の尼僧が長老となり、ますます無学以来の法衣と頂相の管理が難しくなり、建聖院、正脈院へと保管場所を変えていく。この過程においても、室町殿の許可のもと移動が行われ、これら聖遺物の重要性をみることができる。如大をめぐる説話は中世後期に増幅するが、その背景にはこうした状況があった。 この他、室町幕府と密接な関係を持った相国寺関係史料を収集、さらに研究の幅を広げるため、中世後期の法勝寺関係史料を調査収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウイルスの流行拡大によって、一時期、寺院や公的機関で調査・閲覧の制約があったため、調査が可能な所蔵者・機関を優先して作業を進めた。調査した文書については、写真版を作成して読解作業を進めた。具体的には、宝鏡寺(京都市上京区)・京都国立博物館(寄託宝鏡寺文書)・京都大学総合博物館古文書室・大津市歴史博物館・高野山霊宝館において調査を進めた。 中世尼寺関係文書は、これまでの研究が立ち後れている分野であり、一定度翻刻作業が進んだので以下の点に関わる史料分析を行った。①鎌倉時代末の無学祖元が日本の尼僧無外如大尼与えた法衣の相承の系譜が持つ意味、②尼僧たちがのこした史料をもとに法衣相承に対する努力と門派意識、③景愛寺長老と法衣の相承者が分離していく過程。これらの分析と考察を行い論文にまとめた。 京都大学総合博物館古文書室では室町殿室が出家後入寺した南御所大慈院文書を中心に撮影をしたが、分析は今後の課題である。大津市歴博物館における西教寺文書調査については、コロナ禍の規制もあり途中までで止まっている。 相国寺関係史料については、清規関係史料を収集したが、未刊の語録関係も含め調査を継続する予定である。 また、これまでの執筆論文をまとめて中世後期仏教の著書を刊行するためその準備を行った。一書にまとめることにより中世後期仏教研究の必要性と到達点を世に示すことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、尼五山第一位景愛寺の歴史的な変遷について論文をまとめていく。尼五山は史料の残存状況が良くなく、その実態はほとんど不明であったが法衣相承系譜にある人名と法衣相承に関わった尼僧の書状をもとに歴代の確定を行い、公家の日記史料にみえる景愛寺長老の動向を検討していく。これらの作業によって、中世後期仏教の一角を占めた尼寺研究が格段に進展すると考えている。 さらに仏教諸宗派の女性に対する意識を整理しながら、禅僧がどのような思想のもと女性の悟りや参禅を認めていったのかを明らかにしていく。漢文による作品は、決まり切った文言の羅列が多いが、仮名法語類を収集して分析を加えていく。 寺院史の問題としては、南北朝期に創建される天龍寺をめぐる公武の対応を分析して天龍寺創建の歴史的な位置づけを行う。創建時の法会の在り方やその背景にある夢窓疎石の思想をあわせて考察していく。この時期、勅会に準じた天龍寺法会の在り方は公武政権内で議論を呼び、この内容を明らかにしていく。夢窓との論争の相手であった真言密教僧、浄土教僧の著述の収集にも努めていく。これによって中世後期仏教における夢窓の思想史的な位置づけを確定していきたい。顕密諸宗はもとより浄土教も含め、禅宗との思想的な対立点を明確にしていく予定である。 大津市西教寺文書については、その中にある法勝寺関係文書・聖教の調査を継続していく。天台宗の円戒運動の意義を明らかにしていく。 これらの成果をもとに中世後期における授戒活動の意義を解明していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行拡大によって、所蔵者の意向で史料調査のための出張ができなかった。また、公的機関においても閲覧制限があり、本務校業務との兼ね合で出張できなかったため。 2023年度は、コロナウイルス流行にともなう社会的な規制は少なくなると考えられるため、調査出張を進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)