2022 Fiscal Year Research-status Report
Mitteleuropa before World War I : research on the establishment of Mitteleuropaeischer Wirtschaftsverein
Project/Area Number |
22K00944
|
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
杵淵 文夫 東北学院大学, 文学部, 准教授 (30637278)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | オーストリア / 中欧 / 貿易 / 通商政策 / ドイツ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の当初予定に沿って19世紀から20世紀の転換期における「中欧」の広域経済圏構想やそれを実現する取り組みを明らかにするべく「オーストリア農林業利害擁護総本部」の刊行物(Mittheilung der Oesterreichischen Centralstelle zur Wahrung der land- und forstwirtschaftlichen Interessen beim Abschlusse von Handelsvertraegen)や「工業家クラブ」の刊行物(Mittheilungen des Industriellen Club)の分析を1897-1901年の期間を中心に進めた。その関連で、近年の研究文献を踏まえてオーストリア=ハンガリーの通商政策の歴史的な展開についての研究状況と問題点を検討し、史料分析における視角をより一層明確にすることに努めた。 また、本研究の主要テーマである20世紀初頭の「中欧経済協会」設立過程について今後生じうる課題を見越して、設立の主導者(J. ヴォルフ)に焦点を当てた研究も行った。当該人物の「中欧」の広域経済圏構想と人種観との結びつきについて検討するとともに、他の「中欧」との比較を通じて同時代の思想状況のなかでの位置を明らかにした。この研究の内容は、雑誌論文として公表した。 これに関して、本研究計画では「中欧」とドイツナショナリズムとの関係如何も問題となる可能性が高いが、これを看過せずに整理しておくという意義がある。上述の研究によって、当該人物が独自の人種思想を持ちつつも、当時の主要なドイツナショナリズム団体「全ドイツ連盟」の人種主義等とは多くの点で異なっていたことを明らかにした。この成果により、「中欧経済協会」の活動方針が全ドイツ主義的な拡張政策とは異なることを前もって示せたと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「オーストリア農林業利害擁護総本部」や「工業家クラブ」の刊行物を対象とする史料の読み込みはおおむね予定通りに進展した。オーストリア=ハンガリーの通商政策に関する研究状況を綿密に把握する作業については、史料分析の観点をより明確化するために2023年度も継続する予定である。 2022年度の研究計画では予定されていなかったが、「中欧(Mitteleuropa)」とドイツナショナリズムの関係についての問題を、「中欧経済協会」の創設者の思想を対象としてあらかじめ整理しておくことができた。この問題はいずれ同団体の目的や活動の理解の仕方など本研究計画の根幹に関わるため、「全ドイツ連盟」等の人種主義に対する理念的な相違を指摘できたことの意義は大きい。 また、予定されていた京都大学附属図書館での資料収集は行ったものの、名古屋大学附属図書館での資料収集は翌年度に延期して実施することとした。これは、研究代表者の所属機関の調査活動を通じて、調査対象のマイクロフィルムの所蔵状況について事前に調査することを優先したためである。その結果、マイクロフィルムの保管状況や収集対象の選別、図書館の利用方法などを把握できたため、その下調べにもとづいて2023年度に資料収集を実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
最新の研究状況を踏まえてオーストリア=ハンガリーの通商政策に関する研究上の問題点を整理する作業を継続する。この作業を通じて分析視角を可能な限り明確かつ具体的にすることが、研究計画全体にとって肝要であるためである。その視角にもとづいて、当時の通商条約更新や通商関係の問題に対する「オーストリア農林業利害擁護総本部」や「工業家クラブ」などオーストリアの経済的な利害団体の立場を検討する。2023年度はそれら利害団体が「中欧」の広域経済圏構想に関心をもつ背景やそれに取り組むこととなる過程を検討する。 また、「オーストリア中欧経済協会」の設立過程の研究区分に関しては、すでに入手している議事録等があるため、年度内にその読解に着手する予定である。ただし史料の不足も予測されるので、設立活動の展開をできるだけ具体的に再構成できるように、その他の刊行物や新聞等へと史料活用の範囲を広げる方針である。 研究計画上では2023年度に現地オーストリアの資料館・図書館での資料調査が予定されているが、これに関しては現在も近隣国で交戦中であり停戦や終戦の見込みが立っていないことが懸念される。調査の実施時期や現地までの移動経路を安全確保の観点から十分に考慮した上で、資料収集の計画を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由に挙げられるのは、名古屋大学附属図書館における資料調査を2023年度に延期したことである。当該の調査は2022年度に予定されていたが、コロナ禍にあって当館における外部機関所属者の利用期間や利用方法、マイクロフィルム資料の保管状況や内容等を事前に確認しておく方が、万が一の不測の事態に備えることができ、また効率的に実施できると思われた。そのため、2022年度にはまず初めに、研究代表者の所属機関を通じて、当該マイクロフィルムの内容確認を含む事前の下調べや名古屋大学附属図書館の利用方法の確認を行った。 このような事前準備の作業によって、資料調査について名古屋大学附属図書館のスタッフと意思疎通をはかるとともに、マイクロフィルムの劣化などの注意点を把握し、調査すべきマイクロフィルムの取捨選択も済ますことができている。これらの下調べにもとづいて、2023年度には名古屋大学附属図書館でのマイクロフィルム資料の調査を行う予定である。
|