2023 Fiscal Year Research-status Report
第一次世界大戦中のハプスブルク君主国における国家ー住民関係
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22K00953
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
桐生 裕子 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (10572779)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ハプスブルク君主国 / 中欧 / 東欧 / 第一次世界大戦 / 戦時体制 / 食糧 / 経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、第一次世界大戦がハプスブルク君主国と住民の関係にいかに影響したかを検討し、そこから君主国崩壊と新国家建設の過程を考察することにある。具体的な分析対象としては、食糧供給システムを取り上げる。研究初年度の2022年度には、主に先行研究を検討し、第一次世界大戦中の君主国の食糧供給体制がそもそもどのような構想に基づいて構築され、実際に運用されていたか、これまで十分に分析されておらず、この点を解明することが本研究の重要な課題であることが判明した。 そこで研究2年目の2023年度は、君主国指導部がいかに食糧供給体制を構想、構築、運用したかについて主に検討することにした。関連史料を国内では入手できないことから、2023年度夏には、ウィーンで史料の調査と収集を行った。具体的には、オーストリア国家文書館で食糧供給にかかわる中央省庁(内務省、農務省、食糧局等)の文書や閣議記録を調査するとともに、オーストリア国家図書館で議会関連の史料を収集した。 その後は、収集してきた史料を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。ウィーン政府は、当初から経済への介入をできるだけ狭い範囲にとどめ、物資の供給も国家機関ではなく民間企業が担う体制を構築しようとしていたこと。さらに食糧・物資不足が深刻により、経済に対する統制を強める必要が生じた戦争後半の時期においても、食糧供給に関わる公的機関に専門家、関連諸分野の代表などから構成される諮問組織を設置する等、食糧供給体制に積極的に住民を関与させようとしていたこと。住民の側からも、そうした諮問組織への参加を求める請願書などが寄せられており、住民の側も食糧供給体制に積極的に関与しようとしていたこと。 以上の研究成果は、君主国の戦時経済体制の官僚主義的性格、あるいは軍の専制といった側面を強調してき従来の見方を大きく修正するものといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は新型コロナウイルス感染症の影響で予定通りに海外での史料調査を実施できず、当初の計画通りに研究を進めることができなかったが、2023年度は予定通り夏に史料調査を実施し、比較的スムーズに史料の調査と収集を進めることができた。第一次世界大戦に関する史料は膨大であり、史料調査、分析には時間がかかっていはいるものの、課題遂行のために必要な作業は進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要に記載したように、2023年度は、君主国指導部がいかに食糧供給体制を構想、構築、運用したか、主に政府、中央省庁の史料をもとに考察を進めた。2024年度は、引き続きこの作業を行うとともに、食糧供給体制を検討する上で欠かせない軍の食糧政策の分析にも着手する。2024年度夏には再びオーストリアに渡航し、オーストリア国立文書館で軍の食糧政策に関連する史料を調査、収集する予定である。その後、収集してきた史料の分析を進め、政府、中央省庁、軍の相互交渉のなかで君主国の食糧供給体制がいかに構築、運用されたのか、解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
2022年度の夏に予定していた史料調査を、新型コロナウイルス感染症のため取りやめた。経費の多くを旅費に計上していたため、2022年度の研究経費を2023年度に持ち越すことになった。従って2023年度には、2022年度からの持ち越し分が本来の2023年度受領分に加わることになった。しかし、2023年度については当初予定していた予算で研究が遂行できたため、次年度使用額が生じることになった。2024年度も夏に渡航して史料調査をする予定であるが、航空券の高騰や円安のために、当初予定していたよりも史料調査に必要な経費がかなり増えると予想される。そのために2024年度に持ち越した経費を使用することを計画している。
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