2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on the role of community-based participatory research on the revaluing process of natural monument 'Nara sika deer'.
Project/Area Number |
22K00997
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
立澤 史郎 北海道大学, 文学研究院, 助教 (00360876)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 奈良のシカ / 天然記念物 / 文化財 / モニタリング / 市民調査 / 合意形成 / re-wilding / 再価値化 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2022年度は、本プロジェクトにおける調査と活動の体制を形作るために、①調査・活動の主体となる協力者及び関係者のネットワーク形成、②そこでの問題意識および課題の共有のための観察会等の実施、③「奈良のシカ」の実態を客観的に明らかにするためのモニタリング調査・検証調査の試行と手法検討、を行った。 ①については、毎月1回(都合12回)、「奈良のシカ」に関わる活動実績のある方々に呼びかけてミーティングを行い、意見交換を行った。②については、奈良公園で長年観察会等を実施している諸団体と協働してシカとその生息地である奈良公園の現状に関する観察会を都合4回実施(共催・開催協力)し、参加者に情報提供するとともに主催者・参加者の相互交流を図った。 ③については、①・②における議論や意見を反映させつつ、同公園平坦部全域のシカ分布調査を昼夜各12回(のべ約500時間・人)行い、そのデータの整理・解析を1990年代に実施された「奈良のシカ市民調査」と比較する形で行っている(モニタリング調査)。またさらに、③の結果を検証するために、(一財)奈良の鹿愛護会が主体となって実施しているシカの捕獲作業と連動する形で、首輪型発信機の装着(計4台)および個体識別用マイクロチップの装着を行った(検証調査)。 以上より、コロナ禍からの回復期におけるシカと人の関係(奈良公園の利用状況、および相互関係)を客観的に把握し、今後のあり方を議論するための基礎情報の蓄積と連携体制の構築が進展した。また構築中のネットワークおよび調査成果を生かすことで、参加する複数の研究者グループにより奈良のシカの遺伝的起源や生態学的特性に関する研究成果が発表されたことも本プロジェクトの成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では2年間をかけてモニタリング体制と関係者のネットワークを構築する予定であったが、関係者の熱意が高く高頻度でモニタリング調査が実施でき、また調査参加者内および一般のSNSでの議論(天然記念物「奈良のシカ」の現状の問題点の共有)も建設的に進んだ。 これは、コロナ禍で奈良のシカの野生回復が進行したことで逆に餌付けの生態学的問題点が浮き彫りになったこと、協力者の研究成果により奈良のシカの遺伝的独自性が明らかになってきたことなどが背景にある。 プロジェクトとしてはこれら当初予期しなかった状況に対応して議論の幅を広げるとともに、急速に回復・増加しつつあるインバウンド(外国人観光客)や餌付けを志向する市民への新たな情報提供を進め、天然記念物「奈良のシカ」の再野生化(re-wilding)の道筋を付ける必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
2年度目以降は、モニタリング調査および検証調査とデータ解析を市民調査として継続するとともに、初年度のミーティング・観察会・調査成果の概要をまとめた公開資料を作成し、さらに多くの市民の議論参加を進める。そしてこれらを踏まえて天然記念物「奈良のシカ」再野生化(re-wilding)による再価値化の道筋(ロードマップ)を提言・一部実践するとともに、これらの実践による成果(奈良シカの行動・生態学的変容とそれらに対する市民の認識)を保全生態学的・環境学習論的手法で評価する。以上をもって、市民参加型・市民主導型のモニタリング調査が天然記念物(野生生物地域個体群)の再野生化とそれによる再価値化に果たす役割を評価する。
|
Causes of Carryover |
初年度に購入を予定していた首輪型発信機が、メーカー(韓国仁川市)の都合(部品調達の遅れ)により2023年度に納入されることになったため次年度使用額が生じました。これは次年度に発信機の購入にあてる予定です。
|
Research Products
(5 results)