2023 Fiscal Year Research-status Report
Basic research on herbaceous flora in ancient capitals using plant remains
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22K01011
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
上中 央子 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 特別研究員 (00463208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 健 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (50510814)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 花粉分析 / 植物遺体 / 古代都城 / 植物相 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代都城を中心とした発掘調査で出土する植物遺体群のうち、特に草本植物に着目し、古代の都市特有の植生景観を実証的に明らかにすることを目的とする。具体的には以下の2点について明らかにする。①古代都城における都市植物相の解明:藤原京・平城京・難波京および周辺の遺跡の新規植物遺体分析を進めるとともに、既存報告から植物遺体群データ(花粉・種実)を収集し、草本植物の植物遺体群データの分類群を再整理することによって、古代都市の植物相の特異性を見出す。②古代都市植物相解明に資する現生草本植物標本の拡充:草本植物分類群の同定精度を向上させるため、都市植物相に特化した現生草本植物を選定し、さく葉・花粉・種実標本を作製する。 2023年度において、課題①については、大型植物遺体データおよび、比較地である大阪府域のほか、京都府の発掘調査報告書の悉皆調査をおこなった。花粉分析や大型植物遺体(種実)分析による複合的分析については、申請者が関わった藤原宮・京の調査(大官大寺第203次、藤原宮第208次、藤原宮跡下層運河第198次)をもとに「植物遺体からみた古代都城における植物相の特徴」として成果をまとめ、第38回日本植生史学会大会においてポスター発表をおこなった(研究発表参照)。 課題②については、昨年度寄贈を受けた現生花粉の乾燥標本を琵琶湖博物館へ収蔵し、標本利用ができるように整備した。また、草本植物の中で選定したベニバナ属、メボウキ属、キカシグサ属、アサ属等の花粉について電子顕微鏡による形態観察を進めた。 また、予てより分担執筆を進めていた植物遺体分析の手法について、「Archaeobotany: Microscopic and Molecular Techniques.」(Encyclopedia of Archaeology)がElsevier Inc.から出版された(研究発表参照)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度において、課題①「古代都城における都市植物相の解明」については、比較地である京都府域(長岡京・平安京)の発掘調査報告書(花粉・種実分析データ)の悉皆調査をおこなった。これまでに大阪府域と京都府域の花粉・種実分析データがPDFの状態で集まったことになる。しかし、対象地域である大阪府・京都府の遺跡発掘調査報告書の数が多く、収集に想定より時間がかかったため、2023年度はPDFデータを読み取ってパソコンへ入力し、再データ化するまでには至らなかった。そのため、最終年度である2024年度は、花粉・種実分析データをパソコンへ入力する作業を精力的に行う必要がある。 課題②「古代都市植物相解明に資する現生草本植物標本の拡充」については、草本植物の中で選定したベニバナ属、メボウキ属、キカシグサ属、アサ属等の花粉の形態を詳細に観察するため、走査型電子顕微鏡による観察を進めているが、まだ一部にとどまっており、進捗状況としてやや遅れている部分もある。 一方で、課題の核となる部分である、花粉分析や大型植物遺体(種実)分析による複合的分析について、「植物遺体からみた古代都城における植物相の特徴」として第38回日本植生史学会大会においてポスター発表をおこない、成果をまとめることができた点において、本研究は大きく進展した。以上のことから、2023年度の研究進捗状況は、おおむね進展しているとし、最終年度の2024年度は残された課題を速やかに遂行したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、研究課題の最終年であるため、残された課題を速やかに遂行し、成果を公表することに重点を置く。 残された課題として大きく2つある。一つは、花粉・種実分析データ(PDF)からの再データ化と、もう一つは、走査型電子顕微鏡を使った花粉の形態の詳細な観察と記載である。これら2点を速やかに遂行するため、今後の研究の推進方策の一つとして、滋賀県立琵琶湖博物館において、補佐員を1名雇用する。約50日を設定し、データ入力と、走査型電子顕微鏡の操作の補助をしてもらう予定である。 これらの作業と並行しながら、研究成果をまとめる。これまでに集成した植物遺体群データ(花粉・種実)から、都市の植物相の特性を明らかにしつつある。さらにデータを解析するため、具体的には植物の多様性を知るための多様度数や、種数変化曲線などのデータの示し方を検討する。 研究成果は、滋賀県立琵琶湖博物館の研究調査報告や、日本植生史学会(植生史研究)への投稿をはじめ、Journal of Archaeological science、Vegetationhistory and Archaeobotanyなどの国際誌への執筆等をおこなう。また、研究成果をわかりやすく広く一般へも伝えられるよう、書誌専門のデザイナーと共同で研究成果の冊子を作成する予定である。 また、本研究で収集・作成した現生標本(さく葉、花粉、種実)は、博物館や植物園などの学術公開センターへ収蔵・寄贈したいと考えており、具体的な手続きに則って課題終了までに完了させたいと考える。
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Causes of Carryover |
旅費において、成果発表旅費以外の旅費(現生標本採集調査旅費や、研究打ち合わせ旅費)は、現生標本の寄贈があったことや、成果発表時に研究打ち合わせを併せておこなうことができたことなどによって、想定外に経費が削減された。また、その他の項目として、論文翻訳や英文校閲等をその他の項目で計上していたが、研究途上であることから、国際誌論文の執筆には至らなかった。以上のことから、次年度使用が生じた。 最終年度である2024年度においては、研究成果を公表することに重点をおいて、研究経費を利用したいと考える。
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Research Products
(3 results)