2022 Fiscal Year Research-status Report
中山間地域における寺院問題の出現メカニズムに関する地理学的研究
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22K01059
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
中條 曉仁 静岡大学, 教育学部, 准教授 (40432190)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中山間地域 / 寺院問題 / 檀家 / 寺院 / 寺族 / 寺院の統廃合 / 廃寺 / 寺院の無居住化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中山間地域における寺院問題の内容を住職や檀家の存在形態に基づいて、時系列に4段階に区分し、それぞれの段階を研究期間各年度において実証する方針である。このうち令和4年度では、専任住職がいながらも、他出子の増加や在村檀家の高齢化により檀家数が実質的に減少する寺院問題のステージに着目した。本年度は寺院側にある住職や寺族の動向に注目し、寺院側が檀家の減少局面においてどのように後継者を確保しようとしているのかを石川県能登地域の寺院を事例に明らかにした。対象地域では、寺族の人数が縮小しており、住職の他出子とその家族から後継者を確保することに可能性を見出すことができた。また、後継候補者が30~40歳代で住職資格を保有しない場合は、後継意識は低くなっているため当該寺院の存続可能性は低くなることがわかった。檀家の減少が進む人口減少地域では、後継者の得られない寺院がすでに多く存在していると考えられ、今後は少数の担い手によって地域に分布する寺院を管理してくことが求められていることを指摘した。これに関しては寺院側の視点のみならず、檀家側の視点も必要となるため令和5年度以降で研究を進める予定である。 また、上記の研究に加えて、寺院の無居住化が長期に及んで代務住職の高齢化が進んだことによる寺院の無住職化と、これに続く寺院の消滅についても、令和5年度研究の事前調査として一部実施した。具体的には、前者の該当事例として広島県の中国山地を対象に、檀家による寺院の管理や年中行事の維持の実態を明らかにした。また、人口減少に伴って統廃合された寺院を取り上げ、特に廃寺となった寺院の跡地の土地利用や墓地の管理状況を明らかにした。これらの事前調査により、廃寺の調査項目を整理できたと同時に、寺院の建造物のみならず、寺院に付属する墓地の管理に関する視点の必要性が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度研究においては、中山間地域における高齢社会化に伴う檀家の減少に対応する寺院の実態を明らかにすることを目標としていた。当該年度では、こうした地域の変化に対応する住職と寺族の行動、特に住職後継者の動向と寺族の持続可能性を検討し、さらに寺院を支える檀家や地域住民の特性について分析した。そして、これらの成果を論文等で発表することができた。ただ、寺院側の視点のみならず、地域住民たる檀家側の視点からの調査と分析を実践する必要性も指摘されたため、引き続き研究期間内で実施すべき課題となっている。 また、令和5年度に取り組む予定となっている寺院統廃合の実態に関する研究について、統廃合件数などの一般に公表されていないデータの収集を、伝統仏教教団のうち曹洞宗・浄土真宗本願寺派・日蓮宗からの協力を得て取り組んだ。また、他寺院に統合され廃寺となった寺院の現状については、これまで実施した調査対象地域における事例を改めて探索し、いくつかの事例を取り上げて、建造物や境内地の状況、それらに付属する墓地の管理状況を調査した。また、廃寺の前段階にある無居住化した寺院では、代務住職の管理が行き届かずに境内が荒廃化しつつある寺院の事例を取り上げて、そこに所属する檀家の年中行事を維持する取り組みや建造物の管理についても調査を実施した。これらの基礎的調査の実践により、令和5年度研究における調査項目と分析項目の整理、ならびに調査対象の明確化が行われたといえる。 以上から、一部に研究課題は残されているものの、次年度に向けた準備調査を含めて当該年度における研究目標は一応達成できたといえる。それゆえ、本研究はおおむね順調に推移していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度では、寺院統廃合の実態に関する研究を推進する予定となっている。すでに令和4年度において、寺院統廃合の件数などの一般に公表されていないデータの収集に取り組んでいる。また、他寺院に統合され廃寺となった寺院の現状については、これまで実施した調査対象地域における事例を改めて探索し、調査項目と分析項目の整理を行い、調査対象の明確化に努めた。これらの取り組みにより、令和5年度研究を円滑に推進することができると思われる。 一方、令和4年度において研究課題として指摘された、地域の高齢社会化に対応する檀家の行動に関する調査と分析は、研究代表者が2016年度と2021年度においてそれぞれ収集した関連データを保有しており、これをベースにして令和5年度と令和6年度に補足的な調査を実践することによって推進することができると考えている。このデータについては一部論文として発表しているところであるが、未だ分析が不十分であり、本科研の助成を得ることによって事例の調査と分析が追加され、中山間地域における檀家家族の実態と寺院への対応を明らかにすることができると考えている。
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