2022 Fiscal Year Research-status Report
The Islamic Revival in Paradox: Why the Sufi Orders in East Africa Gain in Popularity
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22K01096
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
朝田 郁 金沢星稜大学, 人文学部, 准教授 (00780420)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | イスラーム復興現象 / ザンジバル / 祝祭 / スーフィー教団 / マドラサ / 民衆イスラーム / メンバーシップ / ワッハービー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、世界各地のムスリム社会において、宗教的な価値観の復権が生じている。イスラーム的な規範の重視から、この運動は宗教的な原点回帰だと理解されてきた。しかし一連の動きの中で、規範から逸脱するような信仰のあり方も同時に活発化していることが、本研究代表者の予備調査で示唆された。そこで本研究では、ムスリム社会における逆説的な行動様式の分析を通して、イスラーム復興現象における多様性の解明を目指す。 本研究の初年度である2022年度は、文献研究と予備調査で収集したデータの分析をおこなった。東アフリカ・タンザニア島嶼部のザンジバルでは、1964年に生じた政変(現政権はこれを革命と呼称)によって、公の場でのイスラーム的な活動が制限され、政府主導で世俗化が推進されてきた。20世紀後半における世俗化の進行は他のムスリム社会でも見られ、それに対する反発が現在のイスラーム復興を招いている側面がある。そしてザンジバルもまた、宗教的な価値観の見直しの渦中にある。 このイスラーム復興現象において、「より純粋な」信仰を模索する動きと、時には規範からの逸脱を許容するような宗教理解が交錯している。前者の担い手は、宗教知識人やイスラームの原点回帰を主張する活動家であり、後者の担い手はムスリム民衆である。ザンジバルのスーフィー教団は、宗教教育活動に携わるとともに民衆の信仰生活にも深く関わっている。活動家グループは、民衆の宗教実践に対して批判的であり、その矛先は時としてスーフィー教団にも及ぶ。 活動家にせよ民衆にせよ、いずれの活動もより篤信であろうとする宗教的な態度から発している。そして両者の間で活動するスーフィー教団にも、分裂した動きがあることが分かった。つまり、より規範的であろうとする教団と、よりローカル色を強める教団が観察されるのである。復興現象の理解には、教団と民衆の関係性について、さらに検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題が採択された2022年度の段階では、WHO(世界保健機関)による「新型コロナ感染症にまつわる緊急事態宣言」が継続しており、海外渡航による自由な調査活動が困難な状況であった。特に、調査対象地であるザンジバルが属するタンザニアは、当初から経済政策を優先し、積極的な感染症対策をおこなってこなかった。新型コロナの感染者が急増する中、現職の大統領が病没し、その原因にもCOVID-19が疑われるなど、渡航調査の実現までに時間が必要であった。 調査地の情勢は計画立案の段階から把握していたことから、初年度は文献収集と予備調査のデータ分析を中心に研究を進めてきた。研究計画にしたがって、2022年度は日本国内の研究機関で文献資料を集めるとともに、過年度のフィールドワークで得られたデータ(現地アーカイブ資料、フィールドノート、映像記録、音声記録、GPSログ等)の分析を進めた。その概要は上記の研究実績欄にまとめたほか、詳細な内容を2023年度の『金沢星稜大学人文学研究』にも投稿予定である。 本年度の研究活動には、次年度以降に実施予定の渡航調査の準備という側面があり、フィールドワークに向けて主要なスーフィー教団の活動拠点と、教団ごとの基本情報のリスト化もおこなった。教団の活動拠点には、ザーウィヤと呼ばれる教団道場、聖者廟、イスラーム諸学を教育する場であるマドラサがあり、それぞれの位置情報も地理情報システムを使ってマッピングしている。また、現地の教団関係者に対しても調査協力を依頼しており、メッセージ・アプリであるWhatsAppを活用して、スケジュールの調整を進めている。 以上の点から、本研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年5月6日にWHOによる緊急事態宣言は解除され、同8日には日本の感染症法における新型コロナの位置付けが2類から5類に移行したことから、出国前検査などの行動制限が撤廃された。また、タンザニアや渡航時の経由地であるアラブ首長国連邦でも、日本人渡航者に対する入国・行動制限が無くなった。そこで当初の研究計画にしたがって、2023年度はザンジバルに渡航してのフィールドワークを実施する予定である。 次年度の課題は、イスラームの祝祭におけるスーフィー教団の役割を解明することである。研究実績の概要にまとめたように、20世紀後半のザンジバル社会では世俗化が進み、宗教的祝祭はまったく実施されていなかった。ところが21世紀に入ると、世界的なイスラーム復興の潮流と呼応する形で、この種の祝祭が相次いで復活している。 祝祭の主だったものは、預言者ムハンマドの生誕祭と聖者祭である。ザンジバル社会ではいずれも元はスーフィー教団が導入した集団儀礼であるが、特に預言者生誕祭は地域住民のすべてが参加するまでに一般化している。また、スーフィー教団の活動でも特にビドア(預言者ムハンマドの示した正しい道からの逸脱)批判を受けがちな、陶酔をもたらす集団儀礼や歌舞が、農村部ほどよく見られる。祝祭会場にはスーフィー教団ごとにテントが張られ、一般向けの見世物が多くの観衆を集めている。 そこで、これらの教団活動が民衆の信仰生活においてどのような位置を占めているのか、人々が祝祭に参加する動機の聞き取り調査や、集団儀礼への参与観察から解明する計画である。フィールドワークに際しては、スーフィー教団側の動きも調査対象とする。すでに述べたように、宗教的規範に忠実であろうとする教団と、よりローカル色を強めている教団があることから、それぞれにどのような戦略があるのか、教団関係者に対するインタビューから明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
発注していた書籍資料が年度内に届かず次年度への持ち越しになったこと、また予定していた調査携行用のラップトップPCの購入を見送ったことから、その分として確保していた物品費がそのまま残存している。後者は、急激な円安で本体価格が計画よりも大幅に上昇したことが理由である。 携行の必要性が限られている2022年度は、従前から所有しているPCを使用したが、次年度に計画している渡航調査の直前には、その時点での予算内に収まる軽量なラップトップPCを購入する予定である。 一方で、円安状況は今なお改善されておらず、航空券代や現地滞在費が、計画立案時よりも高くなることが予想される。また、渡航調査では調査協力者に対するインタビューが予定されている。これらに要する人件費の上昇も避けられないため、使用可能な研究費を超える可能性が出てきた場合には、調査日数や回数の削減などで対応することを検討する。 したがって、2023年度は計画通り適切に使用できる見込みである。
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