2023 Fiscal Year Research-status Report
所得相応性基準に関する日米比較法研究を素材とした知的財産権の評価基準の構築
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22K01143
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
谷口 智紀 専修大学, 法学部, 教授 (50634432)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 租税法 / 国際租税法 / 知的財産権取引 / シェアリングエコノミー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の令和5年度の研究では、令和4年度の研究実績を踏まえて、知的財産権取引から生じる経済的利益をいかに正確に補足していくかという問題に関連して、同種の問題が生じているシェアリングエコノミーの取引をめぐる課税問題に焦点を当てて研究した。この研究からは、わが国の知的財産権の体系的な評価手法を構築するにあたって、有益な示唆を得られた。 シェアリングエコノミーの取引に関する所得税の問題は租税法の適用という執行段階の問題であり、消費税の問題は租税法の立法段階の問題であるといえる。新しい経済取引が出現したことに伴って生じた課税問題は、まずは租税法体系の中に位置づけて、租税法の基本原則である租税公平主義と租税法律主義の下において解決を図るべきである。シェアリングエコノミーの取引の特殊性を強調し、課税強化を目的とした制度の導入を急ぐことには問題がある。 とくに、シェアリングエコノミーの取引を対象とする源泉徴収をめぐっては、源泉徴収義務者となるプラットフォーム事業者と提供者、そして国の三者間の法的関係をいかに位置づけて、租税法律関係を構築すべきか、また、そもそも源泉徴収制度の導入の前提となるプラットフォーム事業者に源泉徴収義務を課すことに合理性が認められるかなどの多くの問題がある。 また、インターネットによる個人間売買の広がりや無形資産の重要性が注目される中では可視化できない取引の増大が増大しており、適切な申告・納税が行われていないという問題が指摘されている。この問題を解決していくには、税理士の存在は不可欠である。申告納税制度の根幹を支えている税理士の本質的な職務内容は、経済のデジタル化において変容することはない。税理士はその能力を活かして、デジタル課税問題が租税法の解釈、適用のうち、どの場面と位置づけられるかを適切に判断し、解決していくことが求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は当初の研究実施計画にしたがって行われている。 令和4年度、令和5年度の研究により、わが国の知的財産権取引の課税をめぐる現状と、その議論の到達点を明らかにしてきた。また、比較対象国として位置づけたアメリカにおける基本的な議論も整理することができた。 財産権の評価は課税上の重要かつ困難な問題の一つであるが、とりわけ、知的財産権の価値評価が難しいとされる。その理由は、その潜在的な金銭的価値が知的財産権自体の有するユニークさ(固有性)に由来する点にある。課税の公平を実現するためには知的財産権の画一的な評価手法が確立されるべきであるが、一方で、その評価においては、固有性があるゆえに画一化を図りにくい。この2つの考え方をいかに調和させていくかが問題となる。 最終年度となる令和6年度は、この問題に対してアメリカではどのように解決が図られているかを明らかにし、わが国の課税問題にいかなる示唆を得られるかを、比較法研究の手法を用いて検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
デジタル課税問題の一つにも位置づけられる知的財産権の評価の問題が難しいとされるのは、その潜在的な金銭的価値をいかに適切に評価するかの具体的な手法が確立していないからである。課税の公平を実現するためには知的財産権の画一的な評価手法が確立されるべきであるが、その評価においては、固有性を適正に反映することが求められる。この2つの考え方を調和させた手法でなければ、適正な知的財産権の価値評価とはいえない。 今後の研究では、とくに知的財産権の固有性を評価に反映させるためにも、アメリカの知的財産法や関連法領域の調査を中心に研究を進めていく。とくに、アメリカでの現地調査として、文献調査とインタビュー調査に重点を置きたい。この研究の視点は、知的財産権の評価の適正性を歪める納税者と租税行政庁の恣意性を排除する仕組みを構築するために有益であると考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、アメリカにおける現地調査の実施を、令和6年度に変更したからである。これは、本研究課題の研究計画の遅れに伴うものではなく、研究手順の一部を入れ替えたことによるものである。 研究代表者は、令和6年度、Visiting scholarとしてワシントン大学ロースクールに所属している。そのため、同大学が所属する本や雑誌、データなどの文献調査や、アメリカの租税法および知的財産法の専門家に対するインタビュー調査などの現地調査を、当初の計画どおり実施することができる環境にある。これらの調査に次年度使用額を充てる。
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