2022 Fiscal Year Research-status Report
違憲審査の政治的・社会的統合機能に関する比較憲法学的研究
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22K01168
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
塚田 哲之 神戸学院大学, 法学部, 教授 (00283383)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小竹 聡 拓殖大学, 政経学部, 教授 (20252299)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 違憲審査 / 合衆国最高裁判所 / 人工妊娠中絶 / 憲法判例の変更 / 最高裁改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度にあたる2022年度においては、厳しい政治的・社会的対立(「分断」)状況にあるアメリカ合衆国における違憲審査の現状把握とその背景要因の検討に力点を置いた。折しも、2022年6月合衆国最高裁判所は、約半世紀にわたり長く激しい対立を生んできた人工妊娠中絶に関する憲法判例(1973年Roe判決、1992年Casey判決)を変更するDobbs v. Jackson Women’s Health Org.判決を下し、人工妊娠中絶をめぐる対立に新たな画期をもたらすとともに、「分断」状況における判例変更によって最高裁の憲法判断の正統性をめぐる争いをあらためて提起し、本研究課題にとっても極めて重要な課題を呈示することとなった。 そこで、2022年度においては、(1)Dobbs判決を含む直近数年の重要な最高裁判決について、合衆国の政治的・社会的環境における政治・社会運動体の役割を重視しつつ、検証すること、(2)近時提起されている最高裁改革の諸提案を含む、違憲審査の制度的環境についての現状把握とその検証、を中心に研究を進めることとした。2022年9月のオンライン研究会では、(1)につき小竹聡(研究分担者)「合衆国最高裁判所による中絶判例の変更」、(2)につき塚田哲之(研究代表者)「合衆国最高裁改革に関するバイデン委員会報告書について」の各報告と検討、同年11月のオンライン研究会では(1)につき福嶋敏明(研究協力者)による信教の自由・政教分離に関する判決(Kennedy v. Bremerton Sch. Dist.)の報告と検討を行い、現状の把握と検討課題を共有した。 これら研究成果の一部はすでに公表しているが、並行して研究代表者らによる法学セミナー誌連載「アメリカ憲法判例の最前線」をもとにした出版企画を進めており、2023年度の公刊を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の中心的課題とした、合衆国最高裁判所の諸判決、とりわけ人工妊娠中絶に関する重要な判例変更を含む現状とその背景についての分析はおおむね順調に進んでいる。上記判例変更についても、当該判決にのみ着目するのではなく、判例変更に至る最高裁内外の環境とその変容を経時的に検討し、かつ他領域における最高裁の判断との連関にも配慮してより多面的な理解を得ることができた。また、近時の最高裁制度改革(裁判官増員、任期制導入など)に関する議論状況の把握を通して、違憲審査の制度的環境についても一定の知見を得ることができた。研究成果の一部については、すでに公刊しているほか、研究代表者・研究分担者らによる書籍を準備中である(2023年度公刊予定)。 一方、最高裁による違憲審査と合衆国における政治体制・社会構造との関係についての理論的把握については、2023年度以降の本格的な検討に向けた準備作業に着手している段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度以降については、(1)引き続き重要な最高裁判決(大学入試におけるアファーマティブ・アクションや表現の自由に関する重要判決を想定している)を中心とした現状の把握とその背景要因の検証を進めるとともに、(2)最高裁による違憲審査と政治体制・社会構造との関係に関する理論的把握のため、ポピュリズム憲法学や司法政治学も参照しつつ、合衆国における理論動向の検討を行い、(3)「分断」状況下における違憲審査の役割、とりわけ政治的・社会的統合機能についての検討課題の抽出に努める。また、2023年度にはアメリカ合衆国に出張し、資料収集およびインタビューの実施を通して、現状および理論的課題の把握とその検討の方向性について知見を得ることを計画している。
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Causes of Carryover |
物品費については、図書(和文・欧文)、コンピュータを中心におおむね当初の予定通り使用することができた。一方、旅費、人件費・謝金支出を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策の必要上、研究会・打ち合わせはすべてオンラインで実施し、旅費支出・謝金等の支出が不要となったため、それに相当する額が次年度使用額として生ずることとなった。 次年度使用額については、翌年度分の助成金とあわせて、物品費および旅費(アメリカ合衆国への出張を計画している)に充てる予定である。
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