2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K01222
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
深澤 泰弘 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (40534178)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | サイバーリスク / 保険契約 / 戦争免責条項 / 損害保険契約 / 米国法 / サイレント・サイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、サイバーリスクと保険契約に関して、米国で実際に起きたMondelez対チューリッヒの事案を参考に、サイバー攻撃により引き起こされた損害に対して、いわゆる「戦争免責条項」が適用されるかどうかについて、当該裁判例とそれに関する米国法の議論についての分析・検討を中心的に行った。 まずは当該事案を検討するための足掛かりとして、米国においてこれまで戦争免責条項が争われた事例をピックアップし、具体的にどのような要素が免責の決め手となるかについて整理した。そして、それがサイバー攻撃の場合においてはどのように影響するか(戦争免責に対してポジティブに働くのか、ネガティブに働くのかなど)について確認した。その結果、サイバー攻撃の場合、交戦中の当事国以外の地域に影響を及ぼすことがあるといった特徴があり、どのような場合が免責の対象となる「戦争」の範囲に含まれるのか、国家による攻撃と断定するためには何が決定的な要素となるか等の判断が難しい問題が多数あり、現状ではサイバー攻撃に従来の一般的な戦争免責条項が適用されることは難しいとの結論に至った。これは我が国においても同様である。 しかし、今後さらにIT化・デジタル化が進んでいくと、サイバー攻撃による壊滅的な損害の発生の可能性が企業に限らず我々一般市民の生活にも大いに考えられる。このような場合に、既存の補償範囲や免責規定では対応できず、それらの全てに従来のとおりに保険金を支払っていたら、保険会社に壊滅的な被害が生じる可能性があるのではないだろうか。そうすると何か別の手段による手立てが必要になりそうである。米国の議論には、①再保険市場の構築、②強固な資本市場の形成、③国家による支援のやり方を提案するものもあり、傾聴に値する。この点については、米国や我が国の議論の状況について、まだ十分に検討ができていないので今後の検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度中に、本研究に関しては学会での発表1回、論文1本を作成した(2024年6月ごろには公表予定)。現在はこの発表についても、当日もらった質問やコメント等をもとに加筆修正し、2024年度中には学会誌において論文として公表する予定である。また、これまでに研究に必要な資料はかなり収集することができたため、現在はこれをもとに分析・検討を行っている。この研究成果については、2023年度と同様に、学会等で発表をし、学会誌等に論文として掲載する予定である。したがって、現在のところ、研究の進捗状況は順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では米国のみならず、英国も研究の対象に加えていたが、米国の研究だけでもかなりの時間と労力を要するため、両国をやることで中途半端な研究を行うことになるよりも、充実した研究を行うために米国に研究の対象を絞ることにした。 米国の資料については、2023年度中に必要なものについてかなりの収集を行うことができたが、より最新の、そして文献等では知ることのできない情報を得るために、2024年度中には米国に赴き、現地でこの分野に造詣が深い研究者へのヒアリング調査等を行う予定である。また、米国法から得た示唆を国内法にフィード・バックさせるために、国内の状況をより的確につかむ必要がある。そこで、サイバーリスク保険等の導入の背景や現状に詳しい国内の実務家にもヒアリング調査等を行う予定である。 研究の成果は保険学会等で発表し、そこでもらった意見や批判等をもとにブラッシュアップして、論文として公表することを予定している。
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Causes of Carryover |
2023年度は国内出張や必要な文献購入等は行えたものの、海外(特に米国)での現地調査などを行うことができなかったため、助成金を当初の予定よりも使うことができなかった。2024年度は、海外での現地調査を予定しており、また国内出張等もこれまで以上に精力的に行う予定である。また、研究に必要な資料については今後も積極的に収集していく必要があるため、計画どおり助成金を使用していくことになるものと思われる。
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