2023 Fiscal Year Research-status Report
植物新品種保護法制の総合的研究ー種苗法と他の知的財産法の比較という視点からー
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22K01284
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
愛知 靖之 京都大学, 法学研究科, 教授 (40362553)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 種苗法 / 育成者権 / 品種保護法制 / 知的財産諸法との比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、種苗法上の公示制度と過失推定のあり方、「独自育成の抗弁」の採否について、特許法上の過失推定や依拠擬制、著作権法上の依拠要件や独自創作の抗弁と比較しながら、分析検討を行った。 まず、著作権法で依拠が要求されているのに対し、特許法ではこれが不要とされている理論的根拠を再確認した。すなわち、他者の財産的情報にアクセスし、これにフリーライドすることにより、情報創作者の創作インセンティブが減殺されることこそが、他人の財産的情報に「依拠」した場合に、権利侵害を肯定するための積極的論拠である。他方で、特許法等において、依拠が要求されていない理由は、権利の存在とその内容が公示されているため、権利が及びうる範囲を調査するコスト負担はさほど大きくはなく、調査義務を課しても大きな支障が生じないことによる。公示により権利の存在と内容が公示されていることは、特許法等における過失推定の根拠でもある。 以上の分析を基礎に種苗法について検討し、種苗法固有の問題点、すなわち、必ずしも登録品種が有する特性の全てが公示されるとは限らず、育成者権の権利範囲を完全に画するものではない(種苗の現物が実際に備えている特性が最終的な基準となる)という点を重視し、他の種苗業者に常に現物の確認を要求することは、多大な調査コストを負担させることになるため、品種登録簿で公示された審査特性とは異なる特性を備えた品種を開発・利用する者に対しては、たとえ、その特性の差異が現物による栽培条件の違いに起因するものに過ぎないことが明らかとなったとしても、過失推定規定適用を否定して損害賠償請求を退けるとともに、「独自育成の抗弁」により差止請求を否定すべきではないかという結論を導いた。 これらの研究成果は論文で公表済みあるいは公表予定(著作権に関する成果。既に脱稿済みであり、記念論文集に収録され2024年中に公刊予定)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他の知的財産諸法と比較しつつ、種苗法上の公示制度と育成者権行使のあり方について検討し、成果を公表することができた。これにより、種苗法上の重要論点に対する解釈論・立法論の提示を通じた固有の個別法理・ルールの構築に従事するという当初の目的の一部を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、他の知的財産法制度と比較しながら、種苗法上の重要論点に対する分析検討を行うとともに、フリマサイト等における種苗の違法出品の増加やこれと結びついた種苗の海外販売など新たに対応すべき課題も出ており、法解釈論のみならず立法論・政策論に踏み込んだ研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた国内出張のうち、調整が付かず断念したものがあった。 今年度に引き続き、本研究課題に関連する文献・資料の購入を進める。また、本研究目的を達成するためには、実務的知見を獲得することが必要となる。そこで、学会や研究会等に参加し実務家と交流することで、実務的知見を獲得するとともに、研究成果の報告や意見交換を通して、本研究課題に関する議論を深める。そのための旅費を支出する。
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