2023 Fiscal Year Research-status Report
移行期正義の逆流―ラテンアメリカにおける「移行期正義」の受容と拒絶
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22K01300
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大串 和雄 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (90211101)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 移行期正義 / ラテンアメリカ / アルゼンチン / ペルー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度には、アルゼンチンのブエノスアイレスとサン・サルバドル・デ・フフイ、及びペルーのリマで現地調査を実施し、人権侵害の被害者を中心に74名に対して聞き取り調査を行った。現地調査以外では、二次文献の調査を継続した。 初の調査地であったアルゼンチンではとりわけ新しい発見が多かった。たとえば、アルゼンチンでは人権侵害の被害者に加害者との「和解」の意思がないことはわかっていたが、一人の例外もなく「和解」を断固拒否したことは拒否感情の強さを再確認するものであった。また、アルゼンチンではペルーやコロンビアとは異なって「巻き添え」になった被害者は少なく、人権侵害の被害者のほとんどが非暴力的に活動するかまたは武力闘争の道を選択した活動家であったが、生存者や遺族のほとんどは、かつての左翼による暴力を是認するか、または判断することを拒否した。年配の遺族から1980年代、90年代の遺族の活動について新たな知見を得たり、被害者団体相互間の連合や軋轢について知識を得られたことも収穫であった。 なおアルゼンチンでは当初、かつての左翼ゲリラによる暴力の被害者からも聞き取りすることを希望していたが、アプローチ可能な被害者は軍事政権の人権侵害を否定もしくは矮小化する極右の政治勢力に取り込まれている人が多く、不用意にアプローチすると大統領選のさなかに政治利用される恐れがあったため、熟慮の上今回は断念した。 ペルーの聞き取り調査では、NGOや法務省が中心となって、軍・警察による暴力の被害者と極左ゲリラによる暴力の被害者(主として警察官の遺族)との間で良好な関係を構築しようとした努力について、新たな知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通りに現地調査と文献調査を進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は文献調査に専念し、令和7年度にチリとペルーで現地調査を実施し、令和8年度に研究をまとめる予定である。
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