2022 Fiscal Year Research-status Report
フランス諸都市の都市内分権組織を通じた抽選民主主義と参加型予算の実践に関する研究
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22K01332
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
中田 晋自 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (60363909)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 市町村合併 / 住区評議会 / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の欧州諸国は、メンバーを抽選で選ぶミニ・パブリックスに国政レベルのテーマの審議を託すなど、抽選民主主義の「新時代」にある。メンバーを抽選で選出する熟議体はミニ・パブリックスと呼ばれ、1970年代初頭の米・西独でその試みが始まったが、近年では欧州諸国の国政レベルにおいて、その存在感を示している。 他方フランスの住区評議会制は、人口8万人以上のコミューン(市町村)に都市内分権組織の設置を義務づける市民参加制度であるが、その制度設計を一任された当該コミューン議会が、この組織を自治体予算の編成から排除するなど、従来からその限界性が指摘されてきた。しかし近年、これらの組織を通じてミニ・パブリックス(抽選制熟議体)や参加型予算(予算編成に市民が参加)を実践している自治体も登場している。 以上のことを踏まえ、本研究の目的は、フランスの市民参加制度の実施状況を俯瞰するとともに、とりわけ法定の都市内分権組織である住区評議会の枠組みを活用して、ミニ・パブリックス(抽選制熟議体)や参加型予算を実践している都市自治体の先進的事例を、現地調査研究を通じて収集・分析するなかで、より実効的な市民参加制度のあり方を探求することにある。本研究では、その事例研究における最初の対象地域をフランス南東部の地方都市アヌシー(Annecy)に定めて、調査研究を開始している。 2020年春の全国一斉コミューン議会選挙の結果、アヌシー市では市政担当者の交代(中道右派から環境保護派へ)が起こり、この新市政は、選挙公約に従い、「市民参加改革」を実行に移すとともに、前市政下で設置された住区評議会についても、抜本的な見直しをおこなった。同市では、2021-2022年のおよそ1年間、市が設置した暫定住区評議会(合計で240名のメンバー)において審議がおこなわれ、住区の数や地理的区画の再定義をおこない、「住区評議会憲章」(2022年4月)が制定されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
【研究実績の概要】で述べたように、本研究は、フランスの市民参加制度の実施状況を俯瞰するとともに、とりわけ法定の都市内分権組織である住区評議会の枠組みを活用して、ミニ・パブリックス(抽選制熟議体)や参加型予算を実践している都市自治体の先進的事例を、現地調査研究を通じて収集・分析するなかで、より実効的な市民参加制度のあり方を探求することを目的としている。 ただし、以下に述べる幾つかの理由・事情から、本研究における現地調査研究の本格的な実施については、これを2023年度に先送りすることとした。その理由・事情とは、すなわち、(1)アヌシー市の公式サイトに同市の「住区評議会憲章」(2022年4月)が公表されたことを受け、報告者(本研究の研究代表者)が同市役所に対し、同市の担当者(担当助役や担当職員)へのインタビューを申し入れ、同年9月に実施されることが決まったものの、同憲章に基づく活動は、まさに同年9月から開始される予定で、その活動実績が報告書等で取りまとめられるのは、早くても2023年9月以降になるとされたこと;(2)新型コロナウイルス感染症の問題があったため、2022年9月のフランスへの渡航は2019年夏(シェルブール=アン=コタンタン市役所を訪問)以来のものであったが、アヌシー市の担当者に対するインタビューで解明すべき課題(同市の「住区評議会憲章」がどのような経緯で制定されたのか)については、もう一つ別の科研費(課題番号JSPS科研費19K01448:1年延長したため、2022年度が最終年度)で取り扱うのが適当であると考えられたこと;(3)報告者の本務校(所属研究機関)における職務との関係で、夏季休暇期間(8・9月)以外の時期に海外出張することは、現実的に困難であると判断されたため、の3点である。 以上のような理由・事情から、本研究の本格的な実施は2023年度に先送りすることとしたが、その研究計画については、次項で記述する。
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Strategy for Future Research Activity |
前項で述べた理由・事情から、アヌシー市を最初の対象地域とする本研究(現地調査研究)は、2023年度から本格的に実施されることになる。 2022年9月にアヌシー市の担当者にインタビューをおこなった際、次年度以降も引き続き、報告者が市役所を訪問することについて、承諾を得ている。同市の「住区評議会憲章」に基づく新しい住区評議会が実際どのような取り組みをおこなっているのか、現地調査研究を通じて明らかにするなかで、本研究の目的である、住区評議会の枠組みを活用したミニ・パブリックス(抽選制熟議体)や参加型予算の実践に関する先進的事例の収集・分析を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
上述のような判断から、本研究における現地調査研究の本格的な実施を2023年度以降に先送りしたため、交付を受けた研究資金については、その大半を使い残すことになってしまった。しかし、上述のように、2023年夏のアヌシー市役所訪問については、すでに同市の担当者から承諾を得ている。本研究の2年目にあたる2023年度については、新型コロナウイルスや国際紛争の問題に留意しつつ、フランスへの渡航等で本研究の研究資金を使用することで、研究を推進していく所存である。
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