2022 Fiscal Year Research-status Report
On compatibility between reducing wealth inequality and promoting economic growth in capital taxation
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22K01389
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齊藤 誠 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (10273426)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 資産格差 / 資産課税 / 経済成長モデル / レバレッジ / 国際的な再分配 / N国経済成長モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、資産家層からの反対と経済成長への悪影響から導入が困難とされる資産課税について、経済成長を過度に犠牲にすることなく資産格差を是正するとともに、レバレッジを含めて高度な資産運用手段を有する少数の「富裕投資家」と安全な資産運用を中心とする多数の「少額貯蓄者」にとって相互に有益である穏健な再分配システムを提案する。 現在の金融システムでは、多様な投資機会を有する富裕投資家達が、小額貯蓄者達の運用する安全資産を低利で資金を調達し、リスク対リターン比がきわめて良好な投資成果を得ている。その結果、経済成長のテンポに比して富裕投資家達の資産がより拡大し、少額貯蓄者達の資産がより縮小して資産格差が拡大してきた。しかし、長期的に見ると、富裕投資家達が少額貯蓄者達から低利で資金を調達できる機会も資産格差拡大とともに縮小し、富裕投資家達の資産成長率が経済成長率に収斂して格差拡大がようやく止む。 そこで、富裕投資家達の純資産に資産税を適用し、その税収を少額貯蓄者達に再分配することで、少額貯蓄者達の資産成長率を引き上げる一方、富裕投資家達にも安全利子率で少額貯蓄者から資金を調達できる機会を常に確保する。この再分配システムでは、比較的低率の資産課税で格差是正の効果があるとともに、少額貯蓄者に再分配された資金も富裕投資家を通じて収益性の高い投資機会に再循環することから経済成長を過度に犠牲にすることもない。 2022年度は、Saito (1997)、Devereux and Saito (1997)、Devereux, Saito, and Yu (2020)年のモデルを上記の目的にそって拡張する作業を行い、富裕投資家の純資産に対する資産課税とその小額投資家への再分配、経済成長率、富裕投資家と小額投資家の資産分配の相互依存関係を解析的に分析してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、すでに研究代表者が構築した理論モデルを資産再分配を組み込む作業について、閉鎖経済モデルでは、順調に拡張が行われた。しかし、二国経済モデルへの拡張については、国内の富裕投資家と小額投資家の間の資産分配と、二国間の資産分配の2つの次元で資産分配を記述しなければならないことから、予想以上に困難な作業となった。2023年度は、この点について問題を克服していく。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、当初の研究計画通りに進めていくとともに【現在までの進捗状況】に述べた課題を2023年度中に克服していく。具体的には、以下の作業を実施していく。 ①閉鎖経済モデルについては、富裕層のnet wealth(レバレッジのかかった資産)に対する資産課税率が富裕層のnet wealthの成長率を直接的に引き下げる効果と、資産課税収入から再分配を受ける少額貯蓄者の資産成長率の上昇によって富裕層がより低い安全利子率でレバレッジをかけることができることによるnet wealthの成長率を間接的に引き上げ効果の長期的なトレードオフについて解析的な分析を行い定理を確立する。 ②開放経済モデル(2国モデル)については、【現在までの進捗状況】で述べているように、国内における富裕層と少額貯蓄者の間の資産分配と、国外における二国間の資産分配の相互依存関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
英文論文の校訂費、大学院生のRA費の支出計画に遅れが生じたため。具体的には、2022年度未使用額592,650円について次のような修正を行う。 ①2023年度5月末までに大学院研究室の大学院生のRAの態勢を整えるために、科学技術計算ソフトを整備した(RATS 46,200円×6、STATA 30,800円×3、計369,600円)。 ②2023年度7月末までに2本の英文論文校訂費にあてる(約100,000円×2)。
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Research Products
(3 results)