2022 Fiscal Year Research-status Report
「PPPパズル」の再検討-実質為替レートの粘着性と変動性の関係を探る
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22K01507
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
竹内 文英 東海大学, 政治経済学部, 教授 (00640749)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 実質為替レート / PPPパズル / 粘着性と変動性の相互関係 / ニューケインジアンモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マクロ・ミクロ経済に大きな影響を及ぼす実質為替レートについて、「PPP (購買力平価)puzzle」に関わる2つの特性、すなわち、①均衡状態への収束スピードに関わる粘着性(persistence)、②均衡からの乖離の大きさに関わる変動性(volatility)、について従来とは異なるアプローチにより解明することにある。「PPP puzzle」とは、実質為替レートにある高い粘着性と比較的大きな変動性という2つの特徴が、既存のモデルでは再現できないことを指す。本研究では、この2つの特徴の相互関係を明らかにすることを通じて、「PPP puzzle」解明の一助とすることを目指している。 研究の初年度にあたる本年度は、以下の2つの研究成果が得られた。 第一に、途上国も含めた幅広いクロスセクションのデータを使い分析した結果、実質レートの粘着性と変動性の関係は、非線形の凸関数に近似できることが分かった。非線形の関係性は途上国、先進国のいずれでも観察でき、途上国は先進国に比べて全体として変動度が大きく、粘着性は低くなっていた。この非線形の関係性は、これまでのこの分野の先行研究では明らかにされていなかった点である。 第二に、価格の粘着性とマネタリーショックを基本とするニューケインジアンモデルを使って、実証分析で得られた粘着性と変動性の非線形の関係を再現できるかを検討した(モデルはCarvalho, et.al(2019)を参考にした)。その結果、(1)粘着性と変動性が非線形の関係にあるのは主に、モデル上の全要素生産性(TFP)の粘着性を規定するパラメータの違いに依存している、(2)途上国は先進国に比べて全体として変動度が大きく、粘着性は低くなっているのは、モデルのインフレ率の金融政策反応パラメータに依存している、ということが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記した2つの研究成果のうち、1番目のデータ分析は研究開始前の事前準備の段階でも取り組み、ほぼ同様の分析結果が得られていた。本年度は2番目のモデル分析を主要な研究計画と位置付けて取り組んだ。予定通りに作業が進捗し、分析結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに行ったデータ分析、モデル分析の結果を踏まえて次に取り組むのは、実質レートの粘着性、変動性の非線形の関係を規定していると考えられる全要素生産性(TFP)と金融政策に関わるデータの収集と分析である。研究実績の概要で記したように、全要素生産性(TFP)の粘着性を規定するパラメータ、及び、インフレ率の金融政策反応パラメータを分析対象国について計測する必要がある。データ分析を行なって得られるパラメータとモデルの分析内容とが整合的かどうかを検証していく。以上のデータ分析には全要素生産性、潜在G D P、物価、金利、マネーストックなどのデータを、途上国を含め広範に収集し、分析する必要がある。そのため、I M Fや世界銀行などの国際機関が公表している既存のデータベースのほか、先進国・途上国のマクロ、セミマクロデータを長期間にわたり幅広く収容していることに特徴があるCEICデータベース(CEIC Data Inc.)を購入して利用することも予定している。
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Causes of Carryover |
本年度予算としてデータベース購入費を計上していたが、モデル分析を先行させ、その分析結果を検証する段階でデータベースを利用することとした。その結果、予算を次年度に繰り越すことにした。2023年度にデータベースを購入して分析を行う計画である。
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