2023 Fiscal Year Research-status Report
「PPPパズル」の再検討-実質為替レートの粘着性と変動性の関係を探る
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22K01507
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
竹内 文英 東海大学, 政治経済学部, 教授 (00640749)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 実質為替レート / PPPパズル / 粘着性と変動性の相互関係 / ニューケインジアンモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マクロ・ミクロ経済に大きな影響を及ぼす実質為替レートについて、「PPP (購買力平価)puzzle」に関わる2つの特性、すなわち、①均衡状態への収束スピードに関わる粘着性(persistence)、②均衡からの乖離の大きさに関わる変動性(volatility)、について従来とは異なるアプローチにより解明することにある。 前年の2022年度には途上国も含めた幅広いクロスセクションのデータを使い、wavelet filterという先進的な時系列分析の手法を使って分析した結果、実質レートの粘着性と変動性の関係は、非線形の凸関数に近似できることが分かった。非線形の関係性は途上国、先進国のいずれでも観察でき、途上国は先進国に比べて全体として変動度が大きく、粘着性は低くなっていた。この非線形の関係性は、これまでのこの分野の先行研究では明らかにされていなかった。 2023年度は、この特徴的な粘着性と変動性の非線形の関係がどのようにして出現するのかを、価格の粘着性とマネタリーショックを基本とするニューケインジアンモデルを使って検討した。分析の結果、(1)粘着性と変動性が非線形の関係にあるのは主に、インフレ率の金融政策反応パラメータに依存している、(2)途上国は先進国に比べて全体として変動度が大きく、粘着性は低くなっているのは、モデルの全要素生産性(TFP)の粘着性を規定するパラメータの違いに依存している、ことが明らかになった。2023年度はこのモデル分析の結果を海外の研究学会で報告することができた(33rd RSEP International Conference on Economics, Finance & Business organized by Review of Socio-Economic Perspectives (RSEP) on 23-24 November 2023 in Rome)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は大きく、データ解析とモデル分析の2つの分野に分かれるが、前年度に1番目のデータ分析を行い、2023年度はモデル分析を行なった。予定通りに作業が進捗し、分析結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに行ったデータ分析、モデル分析の結果を踏まえて次に取り組むのは、実質レートの粘着性、変動性の非線形の関係を規定していると考えられる全要素生産性(TFP)と金融政策に関わるデータの収集と分析である。全要素生産性(TFP)の粘着性を規定するパラメータ、及び、インフレ率の金融政策反応パラメータを分析対象国について計測する必要がある。データ分析を行なって得られるパラメータとモデルの分析内容とが整合的かどうかを検証していく。以上のデータ分析には全要素生産性、潜在G D P、物価、金利、マネーストックなどのデータを、途上国を含め広範に収集する必要がある。そのため、I M Fや世界銀行などの国際機関が公表している既存のデータベースのほか、先進国・途上国のマクロ、セミマクロデータを長期間にわたり幅広く収容していることに特徴があるCEICデータベース(CEIC Data Inc.)を購入して利用する。
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Causes of Carryover |
2023年度予算としてデータベース購入費を計上していたが、モデル分析を先行させ、その分析結果を検証する段階でデータベースを利用することとした。その結果、予算を次年度に繰り越すことにした。2024年度にデータベースを購入して分析を行う計画である。
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