2022 Fiscal Year Research-status Report
公営賭博市場におけるtail eventと穴馬バイアス・逆穴馬バイアスの発生要因
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22K01553
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
芦谷 政浩 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (10304057)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 穴馬バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年「tail event(低頻度だが多大な影響をもたらす出来事)」への関心が学界・官界・産業界で高まっている。このtail eventに対する心理学的反応として良く知られているのが「穴馬バイアス(longshot bias)」である。穴馬バイアスとは、穴馬(=的中確率が低く払戻倍率の高い賭け)に対する過剰な選好と、本命馬(=的中確率が高く払戻倍率の低い賭け)に対する極端な忌避である。この現象は、世界各地の競馬場で観察されているだけでなく、金融(個人投資家の穴株や新規公開株、バイオ株への過剰な選好)、保険(家電量販店が提供する割高な延長保証への加入や、格安航空会社が提供する割高な旅行中止保険への加入)、賭博(スロットマシンや宝くじへの選好)など、実社会の至る所で観察されている。 「穴馬バイアス」の発生要因は数多く提唱されているが、一部の市場では穴馬バイアスと正反対のバイアス(逆穴馬バイアス)が継続して観察されることもあり、未だに主要因は確定していない。本研究では、複数の賭博市場を同時に分析することで、穴馬バイアスと逆穴馬バイアスの発生要因の特定を試みる。 研究の第一段階として、本研究では競輪市場のオッズを収集し、穴馬バイアスと逆穴馬バイアスのどちらが成立しているのか、そしてそれらのバイアスはレースのグレード(=車券の売上金額)に依存するのかを分析する。 競輪市場の車券は非常に単純な性質を持つ「条件付き債券」であり、その適正価格を分析することは容易である。このため、各種の市場において上述の「低確率の出来事を過剰に重視する人々」が発生する理由を解明するには、競輪市場の車券で穴馬バイアスが発生する原因を解明することが最善の戦略であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
競輪は、毎日8か所のレース場で、レース場毎に7~12レースが行われる。レースのグレードがG1, G2, G3の場合は、原則として各レースに9名の選手が出場し、3連単・3連複・2車単・2車複・2枠単・2枠複の6種類の車券が発売される。レースのグレードがF1, F2の場合は、原則として各レースに7名の選手が出場し、3連単・3連複・2車単・2車複の4種類の車券が発売される。 レースの開催頻度はF1, F2の方が高いので、2022年度は、4/1~8/31に開催されたF1, F2の約10,000レースと、1/1~12/31に開催されたG1, G2, G3の約2,580レースについて、上述の3連単・3連複・2車単・2車複・2枠単・2枠複のオッズデータを収集した。 例えば9車立ての3連単は9×8×7=504種類の車券があるので、G1, G2, G3の3連単オッズはデータ数が約130万になる。これらのデータを整理して、計量分析可能な形に加工するのが2023年度の課題である。オッズと売上金額・レース番号・レースのグレード・発走時刻・発走曜日を関連付けて1つのデータシートにまとめ上げる作業には、かなりの時間が掛かることが予想される。大学の本務をこなしつつ、鋭意データ加工に取り組む所存である。まずは2023年度中に、G1, G2, G3のデータ整理を完成させることを目標としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、2022年度は競輪データに関して、F1, F2の約10,000レースと、G1, G2, G3の約2,580レースのデータ入手に成功した。競輪の穴馬バイアスを調べた研究は過去に存在しないので、分析を終えることができればそれだけで大きな学問上の成果である。 9車立ての3連単は9×8×7=504種類の車券があるので、G1, G2, G3の3連単オッズはデータ数が約130万になる。これを単純に回帰分析にかけるのではなく、初日特選・準決勝・決勝などの注目度が高いレース(=有力選手が多く出場するので素人も知っている選手が多いレース)と、一般戦などの注目度の低いレース(=弱い選手しか出場しないので素人は知っている選手がいないレース)の間で穴馬バイアスに違いが生じるのかも分析する予定である。 データ数が膨大なので、その整理・加工には多大な時間が必要となるが、2023年度中にG1, G2, G3のデータ整理を終えて、可能ならF1, F2のデータ整理にも着手したい。 また、データ整理の過程で得られた知見があれば、適宜論文の形で発表することを考えている。
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Causes of Carryover |
2023年度への次年度使用額が2,066円生じているが、微小な金額であり、2023年度に全額を費消する予定である。
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