2022 Fiscal Year Research-status Report
レビ過程におけるツリー法を用いた新しいオプション価格評価法
Project/Area Number |
22K01571
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
室井 芳史 東北大学, 経済学研究科, 教授 (90448051)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 数理ファイナンス / オプション価格理論 / 確率過程 / 数値計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、株価が一般のレビ過程に従う経済モデルにおいてツリー法を用いたアメリカンオプション価格の計算方法についてもっとも基礎部分の研究を行った。ブラック・ショールズ・モデルにおけるツリー法はファイナンスにおいて古くから知られたオプション価格の数値計算法である。この手法自体は簡単かつ手軽な数値計算法である。一方、本手法をレビ過程モデル拡張するにも、決め手となる計算方法が存在しないことや計算効率が悪いことなどの欠点があった。本研究課題の最大の力点は、広範なモデルに適用可能なツリー法の開発とその効率的な計算法の開発を目指すことにある。 本年度の研究は、計算効率を追求して高精度かつ高速にオプション価格を計算する手法を構築するというよりは、基礎となる計算手法の確立を目指して行われた。過去の研究では、レビ過程を複合ポアソン過程に近似することでツリーを構築するか、単純にモーメントをマッチングさせるだけでツリーを構築することを模索してきたものがほとんどである。それに対し、複合ポアソンとブラウン運動に対応する両方の要素を含んだツリーを構築することとで、広範なレビ過程モデルにも適用可能なツリーを構築することに成功した。例えば、単に複合ポアソン過程に近似するツリーを構築した場合、infinite variationを持つレビ過程モデルに対しては、オプション価格の近似が極端に悪くなることが分かっていた。一方、提案したツリーでは、複合ポアソンモデルからinfinite variationを持つレビ過程まで一つのアルゴリズムで高精度に価格付けができることが示された。モンテ・カルロ法を用いてオプション価格を計算する場合でも、どの手法を利用するかの場合分けが必要なことが多く、単一のアルゴリズムでレビ過程モデルのオプション価格の数値計算ができるようになったことは特筆すべきことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に「研究実績の概要」で述べた通り、レビ過程に従う経済モデルにおけるツリー法の構築の基礎部分について研究成果を得ることができ、その成果はまだ出版はされていないものの、国際英文誌に掲載することが内定している。よって、研究の進捗状況がおおむね順調であると評価するのは妥当なことと考える。現在の研究成果は、広範なレビ過程モデルにおけるオプション価格評価において高精度の計算結果を得られるようになったものの、効率的な計算法を得たということができないことはやや残念ではある。数理ファイナンスの研究成果が金融実務では大量の数値計算を必要としていることから、提案した手法が実際に利用されるにはやはり計算時間が短いことは重要な要因であると考える。やはり、今後は提案したツリーによるオプション価格計算が高速に実行できるような手法の開発と、さらなる広範な応用の可能性の探索が必要となってくると思われる。現在、提案したツリーを用いてアメリカン・オプションを高速に計算するアルゴリズムについては試行錯誤を行っているところであり、今後の研究の進展が待たれている。
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Strategy for Future Research Activity |
レビ過程モデルにおいてツリーを利用してオプション価格を計算することは簡便ではあるが不効率な手法と考えられることが多い。一方で、ツリーに画像処理でよく利用される離散コサイン変換をツリーに応用することでヨーロピアン・オプション価格を極めて効率の良く計算できることが分かってきた。この研究成果は過去に既に取り纏められ国際英文誌に掲載されている。現在は、離散コサイン変換を用いた手法がアメリカン・オプションの価格計算にも適用できるかについて試行錯誤が行われているところである。離散コサイン変換を含めたフーリエ解析的な手法をツリーに応用してオプション価格を求めるというアイデアは過去に皆無ではなかったが、あまり多くの研究がなされてはこなかった。一方で、ツリー上の確率に対してフーリエ変換を用いる場合に多項定理を利用することで極めて短時間に計算をすることが可能であることが分かってきた。このような手法では、フーリエ変換を数値的に求めるために、特性関数が解析的に閉じた形で既知である問題でなくともフーリエ変換を利用することができる。 ヨーロピアン・オプションの価格計算では、満期の特性関数を数値計算して簡単にオプション価格を計算することができたが、アメリカン・オプションではバックワード・インダクションが必要となるのでそこまで単純に価格計算を行うことはできない。そこで、現在までは、フーリエ変換を利用した方法とバックワード・インダクションを結合する数値計算法の提案を目指して研究を行ってきた。その結果、高速フーリエ変換や補間を援用する効率の良い数値計算法がすでに見つかっている。今後は、数値実験などを通じてその有用性を示していく必要がある。そこで、今年度は、離散コサイン変換を用いたアメリカン・オプションの新しい価格計算法の数値実験結果を積み重ねることで的確な研究成果が得られるように努力していくつもりである。
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Causes of Carryover |
海外で研究発表を行う可能性があると考えていたが、コロナの蔓延もあり海外に行くことはかなわなかった。そのこともあり、研究費を残してしまった。ただし、極端に大きい額ではないことから予定の範囲内と考えている。
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Research Products
(1 results)