2022 Fiscal Year Research-status Report
Restructuring the SDGs Management Theory: The Action and Role of "Nudging" to Change Corporate Behavior and Management Norms
Project/Area Number |
22K01667
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
高田 一樹 南山大学, 経営学部, 准教授 (20734065)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 企業の社会的責任(CSR) / 「責任ある経営」 / 持続可能な開発目標(SDGs) / SDGs経営 / 経営倫理 / 広報と啓発 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年に国連総会で採択された国際政治のイニシアチブである。国連とその加盟国は2030年までの達成を目指し民間セクターにも参画を求める点にSDGsの特徴がある。この間、国連とその支持組織は積極的な広報活動を展開してきた。本研究は、民間企業がSDGsに積極的に寄与すべきだと謳う言説(SDGs経営論)に耳を傾けつつ、それらの言説の妥当性を規範的に検討することを目的とする。 民間企業はSDGsに積極的に参画すべきである。こうした主張を展開する経営論はどのような着想に立ち構成されているのか。それらの言説がいかなる前提に支えられ、どのような価値観を通底させているのか。本研究では「SDGsに参画すべきだ」と民間企業を啓発する言説の脱構築を試みる。 既存の言説の大多数を占めるのは、SDGs経営を「戦略的CSR」の延長線上にとらえる解釈である。たとえばポーター&クラマーの提唱する共通価値創出(CSV)や、プラハラードによるBOPビジネスを援用する議論がそれにあたる。CSRを経営戦略に組み込む着想はいずれも、SDGsへの参画が新たな商機を生み、社会的信用や企業ブランドの向上させる効果に期待を寄せる。本研究はこうした着想から一定の距離を保つとともに、行動経済学が提唱する「ナッジ」や、組織間の提携と経営資源の交換に着目する「オープンイノベーション」を援用しつつ、「責任ある経営」と呼ばれる新たなCSR概念の再構築を目指す。 2022年度には「責任ある経営」概念を手掛かりとして、民間企業への積極的な参画を啓発する国連とその支持組織の言説を検討した。関連する文献資料の収集を進め、筆者が管理するウェブサイトにそのリストを掲載した。またこれら研究成果を学術論文を通じて発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況を以下に述べる3点の理由から「おおむね順調に進展している」と評価した。 1点目は、国連とその加盟国が民間企業にSDGs経営を推進する経緯およびその啓発アプローチの特徴を整理できたためである。2点目は、SDGs経営を推進する言説のうち、戦略的CSRを所与に掲げる理路の構築を、民間企業への啓発という観点から考察できたためである。3点目は、2019年に国連がSDGsの達成に向けた「行動の10年」を宣言した1つの要因を、民間企業による取り組みの遅滞という観点から検討できたためである。 本年度にはまず、民間セクターを対象とする国連およびその支援組織の啓発アプローチを検討した。具体的には17目標に対応したアイコンおよびロゴが啓発に果たす役割を考察した。つぎに国連の支持組織がSDGs経営の推進を企図して公表する導入冊子の編集方針を検討した。そして国連が2015年採択のSDG基本文書を通じ、民間セクターに資源の動員、イノベーション、創造性を強く期待する背景を整理した。 本年度の成果は、SDGs経営をめぐる言説上の「ミスマッチ」を指摘したことにある。国連とその支持組織が公式文書を通じて期待する民間セクターの役割と、産業界や経営コンサルタント企業の戦略的CSRに依拠した啓発には容易に埋まらぬ溝があることを文献を対比させつつ確認した。しかしながらその論理的な不整合は等閑視されたまま、今日のSDGs経営論が形成されてきた。端的に言えば、ロゴやアイコンの露出によりSDGsの認知度は高まった。その半面、開発の定義とその達成度を評価する169のターゲットや233のグローバル指標への理解と関心は希薄のまま、その「溝」は等閑視されてきた。 このように2022年度にはSDGs経営論の規範的支柱と国連が「行動の10年」を宣言するに至った一要因を考察し、その成果を論文として発表することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
国連はSDGsの実施にさいし17目標ごとに数値目標を掲げ、計量的な調査によって開発の進捗状況を把握する評価システムを採用した。169のターゲットおよび233のグローバル指標がそれにあたる。しかしながら開発の遅滞と達成水準の低迷を重く見た国連は2020年に「行動の10年」(decade to action)を宣言し、さらなる参画と実質的な貢献を全世界に呼びかけた。 本研究は「行動の10年」の前半期、2025年までに蓄積されるSDGs経営論と民間企業による経営実践を考察の対象に定める。また、行動経済学が提唱する「ナッジ」および事業革新の呼び水として期待されてきた「オープンイノベーション」など学際的な観点から「民間企業はSDGsに能動的に参画すべきだ」という経営規範が構築される経緯と理路の解明を試みる。 従来のSDGs経営論が戦略的CSR論に依拠してきたことは上述のとおりである。2023年度以降の本研究では「責任ある経営」(Responsible Management)概念に着目し、従来の戦略的CSR論と対比させつつ、この新たな経営規範の解明を試みる。「責任ある経営」は2000年代以降の経営規範に少なからぬ影響を与えてきた。地域限定的な「社会」を越境し、地球規模の課題解決をCSRに結び付ける規範性を備える。さらにCSRの妥当性を企業の内部統制や経営理念に求めるのではなく、NPO/NGOや国連など第三者機関が提唱する基準に求めることも特徴的である。外部認証や第三者評価を受け、その定義や基準への従属に経営の正当性を認めるCSRの着想である。 本研究は「責任ある経営」の着想がCSRへの理解を変容させてきた経緯や、SDGs経営論に与える影響を考察する。ナッジやオープンイノベーションなど学際的な着想を援用しつつ文献収集を進め、研究成果を論文投稿に結実させる方策を立てている。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な要因は以下の2点である。1点目として、新型感染症のまん延防止および参加者の利便性に配慮して、複数の研究会がオンライン開催となり当初予定していた計画で旅費や宿泊費を計上することができなかったことが挙げられる。2点目として、パソコン周辺機器やプリンタ、消耗品など当初購入を予定していた研究機材の一部をすでに所持していたもので代用できたことが挙げられる。 今後の使用計画として、パソコン周辺機器やプリンタ、また文献購入費など消耗品費を中心として直接研究費に充当する予定である。
|