2023 Fiscal Year Research-status Report
老舗企業のサービス・リカバリーにおける価値共創と価値共破壊に関する特質分析
Project/Area Number |
22K01750
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
仁平 京子 千葉商科大学, サービス創造学部, 准教授 (70714492)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | フロントライン従業員 / インターナル・サービス・リカバリー / 家訓 / 口伝 / 主意主義的行為 / 近江商人 / 三方よし / 商業道徳 |
Outline of Annual Research Achievements |
SNS時代の高度消費社会では、苦情社会の到来と言われるほど消費者の権利意識が向上し、モンスターカスタマーや不当クレーマーなどの苦情行動が社会現象化している。このような消費者の苦情行動の増加は、日本のサービス経済化の負の側面として捉えられる。 サービス・マーケティングにおけるサービス・リカバリー研究では、サービス・リカバリーを受けた消費者心理や消費者行動に焦点を当てた研究が多い一方で、サービス・リカバリーを行う「フロントライン従業員」に焦点を当てた先行研究は少ない点に特徴がある。そして、サービス・リカバリーの重要性は、「リスクマネジメント」の視点からもその重要性が指摘されている。 そのため、フロントライン従業員のサービス・リカバリーの実行を支援する従業員トレーニングなどの施策としての「インターナル・サービス・リカバリー」の重要性が挙げられる。本研究では、従来のサービス・マーケティングにおけるマニュアル教育だけではなく、日本型のインターナル・サービス・リカバリーの理論構築に向け、老舗企業においてサービス・リカバリーを行うフロントライン従業員の従業員教育の重要性を検討する。 そして、本研究では、日本の老舗企業のフロントライン従業員教育における「家訓」や「口伝」による「主意主義的行為」に着目する。日本の老舗企業は、不拡大永続主義と顧客満足の創造、家訓や口伝にみる企業組織の行為規範、近江商人に概念の発祥をみる「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の精神を基本理念としている。 日本では、数多くのリスクを乗り越えてきた創業百年、二百年を超す長寿企業が存在し、アメリカ企業とは異なる経営理念がある。このような老舗企業の日本的老舗経営哲学は、アメリカの株式市場主義に対する顧客志向第一主義を特質としており、長期的繁栄の証拠である暖簾や信用を守る「商業道徳」を最優先するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究計画では、老舗企業へのインタビュー調査やフィールドワーク調査、学会参加のために、旅費交通費や企業インタビュー調査費などを予算として計上していた。 しかし、本研究の研究方法論や調査手法、研究対象の業界や企業を検討する中で、調査のスケジュールの変更を行った。 今年度は、サービス・リカバリー研究や老舗企業研究、リスクマネジメント研究に関する文献研究や事例研究を中心に、学際的アプローチによる先行研究の特質と問題点、その適用可能性について検討した。 次年度は、これらの研究成果をもとに、老舗企業に対するインタビュー調査や消費者調査などの実証研究を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、日本型のサービス・リカバリー研究の構築に向け、従業員教育を重視する老舗の中小企業に着目した。フロントライン従業員教育における老舗企業の家訓や口伝による主意主義的行為は、従業員が活躍できる職場の動機づけやサービス品質の向上などの競争優位性の源泉にもつながるといえる。 今後の検討課題として、以下の3点が挙げられる。第一に、本研究では、日本の老舗企業の従業員教育として、「家訓」や「口伝」に記された商人の行為規範として従うべき行動原理としての「商人道」の精神についてテキスト分析を行う。 第二に、本研究では、「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」による質的研究方法を活用し、組織論や組織文化の視点から、老舗企業の主意主義的行為の組織構造を分析する。 第三に、本研究では、サービスの失敗によるモンスター・カスタマーやカスタマー・ハラスメントを生む危険性、顧客満足のためにサービス提供者の人材の質が求められることを背景として、従業員の「感情労働」やメンタルヘルスの問題についても検討課題とする。
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Causes of Carryover |
本研究では、研究申請時の研究計画では、老舗企業に対する企業インタビュー調査やフィールドワーク調査などを予算として計上していた。 しかし、研究手法の再検討の必要性から、今年度は、文献研究や事例研究、二次データの分析に変更を行った。
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Research Products
(5 results)