2022 Fiscal Year Research-status Report
Exploratory research on management control in start-up companies
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22K01792
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
伊藤 克容 成蹊大学, 経営学部, 教授 (40296215)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | マネジメント・コントロール / スタートアップ / 新規事業 / 両利きの経営 / リーンスタートアップ / DDP |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、スタートアップ企業に着目し、新規事業創成の局面で、どのようなマネジメント・コントロールが活用されているのかについて考察することである。新規事業創成の局面は、既存のマネジメント・コントロール研究では対象とされてこなかった問題領域である。新規事業創成のためのマネジメント・コントロールについての考察を深めることによって、マネジメント・コントロール理論の拡張が期待される。事前に予測するのがむずかしい新規事業創成の局面では、既存事業を効率的に運営するのとはまったく別次元の不確実性をともなう 昨年度は、Ries(2011)で概念化された「リーン・スタートアップ」とMcGrath & MacMillan (1995, 2000, 2009)で提唱されたDDP(仮説指向計画法、仮説志向事業計画)を中心に複数の企業に対して実態調査を実施した。重要な発見事項としては、マネジメント・コントロールに対する役割期待がシナリオの効率的な実行から、シナリオの探索(仮説検証)へと変化したこと、新規事業創成のためのマネジメント・コントロールを機能させるための組織要件としては、組織内の「心理的安全性」、「エンゲージメント」などの概念が示す状況が重要であることが把握できた。モチベーションの源泉としては、従来のマネジメント・コントロールでは、業績測定にもとづく外発的動機づけ(評価、報酬など)が機能していたが、規範的な業績測定尺度が入手できない、新規事業創成の局面においては、従来とはまったく異なる動機づけのメカニズムが必要となることが分かった。 事前に正解の定まっていない状況で、仮説検証(探索活動)を促進するには、様々なコントロール手段の総体(パッケージ)としてのマネジメント・コントロールを全面的に見直す必要がある。現段階でいくつかのケースを収集することができた。 今年度は理論体系の更新にも着手したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を遂行するうえで、重要なインプット作業としては、実務家へのヒアリング調査があげられる。複数の企業に調査を依頼し、承諾を得ることができた。現時点(2023年5月)で、オンラインを含めて延べ20回程度のヒアリング調査を実施することができた。ヒアリングと併行して、研究者、実務家との意見交換を随時おこなっている。スタートアップ企業におけるマネジメント・コントロール実務に関して、有益な情報を収集することができている。現実の状況は、多様であるため、一概に抽象化、理論化することは容易ではないが、今後も、理論との照合を重ねつつ、インプット作業の質量を拡充していきたいと考えている。インプットに関して、実務家へのヒアリング意見交換のほかには、研究者、実務家による、学術雑誌、著作物を参照している。 研究のアウトプットについては、著作物と学会発表に大別される。著作物としての研究成果発表は、論文2編として刊行している。本研究課題に深い関連を有する、これまでの研究成果としては、①不確実性の高い状況での事業計画に関する研究、②イノベーションプロセスに関する研究、③マネジメント・コントロールの変容(発展)に関する理論研究に大別される。①については、日本管理会計学会のスタディグループ最終報告書(「DDP(仮説指向事業計画)の導入効果に関する研究」)に、本研究の成果が含まれている。③については、論文「仮説指向計画法(DDP)が機能する要件:マネジメント・コントロールにおける「心理的安全性」に関する考察」として、中間成果をまとめた。①にも関連する点が多いが、仮説指向計画法(DDP)と心理的安全性(Psychological Safety)の関係性について検討した結果、スタートアップ企業でDDPを機能させるための要件、組織が整備しなければならない前提が組織内の心理的安全性であると位置づけることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当面の課題としては、以下の2点があげられる。 1点めは、実務家へのヒアリング調査を継続し、情報収集に努めることである。とくに、コントロール・パッケージの変容、最適マネジメント・コントロールパッケージのデザインという観点からの、情報収集に注力したいと考えている。そのなかでも特に留意すべきは、計画と統制、業績測定にもとづく報酬算定といった伝統的なマネジメント・コントロールの定石が崩れつつあるエビデンスを集めることである。マネジメント・コントロールに対する役割期待が高度化し、事業計画の意味合いが変化したことにともなって、重要な構成要素である、事業計画の実行ステージでの動機づけに関する理論を見直す必要が生じている。伝統的な業績管理会計研究では、行動科学に依拠し、モチベーションに関しては「期待理論」、「目標設定理論」の影響が大きかった。それらのフレームワークにもとづいた実証研究が多数実施されてきた。スタートアップ企業のように、事前に正解のない問題に挑戦する、高次学習を促すマネジメント・コントロールには、莫大なモチベーションを確保しなければならない一方で、正解が事前に定まっていないということは、不確実性が高く、会計数値による業績測定が機能しない。業績測定の情報を報酬算定にもちいることができない。別の方策で、内発的動機づけを担保しなければならない。そのため、プロソーシャルモチベーションの理論およびそこから得られる知見は、高次学習を促進するマネジメント・コントロールにとって有用である可能性が高いと考えている。実務でもこのような予測が妥当か、詳細に観察したい。 2点めに、文献調査によって、コントロール・パッケージの変容について、調査を実施し、説明力の高い、理論モデルの構築を目指すことが課題となる。中間的アウトプットを随時実施し、フィードバックを累積することで、最終的な研究成果を充実させたい。
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