2022 Fiscal Year Research-status Report
サービタイゼーション戦略における収益モデルのイノベーションに関する研究
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22K01818
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
片岡 洋人 明治大学, 会計専門職研究科, 専任教授 (40381024)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | サービタイゼーション / 価値主導型原価計算 / 原価企画 / 顧客ライフサイクル・コスト / 差別化 / ソリューション / 収益モデル / VE |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主として、収益モデルのイノベーションを引き起こすためのコスト・マネジメントのあり方について検討した。 企業経営において原価管理は最重要課題の1つであるが、伝統的には原価低減に焦点が当てられることが多い。一方で、サービタイゼーションのような新しい収益モデルを創出し、運営・管理するためには、新しいコスト・マネジメントの展開が必要になる。それでは、ソリューション提供ビジネスにおけるコスト・マネジメントは、伝統的なそれと同じで良いのだろうか。 先行研究をレビューすると、伝統的な原価管理は、有形の製品を製造・販売することに焦点を当てていること、そして原価低減に焦点が当てられていることが明らかになった。わが国においても、原価管理といえば標準原価計算による標準原価管理であった。一方、明日の競争を勝ち抜くために、どこに、どれだけのコストをかけるべきか、製品原価はいくらであるべきなのかといった観点から原価管理活動・利益管理活動を行う必要性が認識されるようになると、伝統的な原価管理は戦略的コスト・マネジメントへと展開した。 しかし、多くの原価管理研究と実務では、有形製品の原価低減に焦点が当てられ過ぎている。積極的な価値提案により、顧客満足を引き出すためにいかなる活動を行うべきかという戦略的な視点からの議論が不足している。結果的に戦略はコスト・リーダーシップに帰結してしまい、企業は製品のコモディティ化による低価格競争に巻き込まれている。コスト・マネジメントに戦略性が組み込まれていないため、ますます競争優位の構築が困難になっている。そこで、有形の製品のみならず、サービスを組み合わせることによって新しい価値を創出し、ソリューションという形で顧客へ提供する、新しい収益モデルに着目することが重要となる。サービタイゼーションの下での原価管理のあり方を、価値主導型原価計算という形で提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2022年度)は、サービタイゼーションの実態調査を行うとともに、サービタイゼーション戦略を実施するために必要なコスト・マネジメントのあり方について検討した。 前者については、わが国製造業者を対象に、ソリューション提供事業者への移行の状況を調査することで、ソリューション提供事業者への移行過程で生じる経営課題と、ソリューション提供事業者における経営課題を明らかにすることができた。 後者については、明治大学で開催された日本管理会計学会2022年度全国大会における統一論題「わが国におけるコスト・マネジメントの現状と課題」の中で登壇し、その内容を整理したものである。伝統的な製造業の原価管理からサービタイゼーション戦略に適合するコスト・マネジメントへの展開を整理し、新たな研究課題を明らかにすることができた。とりわけ、「コスト<販売価格<顧客にとっての価値」の不等式に基づく価値主導型原価計算を提唱し、長期的関係性が重視されるサービタイゼーションのコスト・マネジメントは、価値主導型原価計算と、VE(Value Engineering)に基づく収益性の作り込みとレビューによって支えられることを示した。 サービタイゼーションは、コスト・リーダシップのためではなく、差別化に基づく競争優位の構築を志向している。低価格競争ではなく、プレミアムプライシングを実現することが、企業の持続的競争優位につながる。本年度は、そのための経営課題を明らかにし、コスト・マネジメントに必要な価値主導型原価計算を提唱することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2022年度)は、本プロジェクトの1年目であり、わが国を代表する優良企業で取り上げられているサービタイゼーションによる収益モデルのイノベーションの実務に関する諸問題を明らかにするために、先行研究を詳細に分析するとともに、価値主導型原価計算を提唱した。2023年度も、本年度と同様に、引き続き先行研究を詳細に分析しつつ、継続して複数企業へのインタビュー調査を進め、価値主導型原価計算の精緻化や適用可能性を検討することが重要であると考えている。 第1に、価値主導型原価計算のコアである「コスト<販売価格<顧客にとっての価値」の不等式において、顧客にとっての価値を高める事例の研究を行う必要がある。そのための契約形態がPBC(Performance-Based Contract)であり、サービタイゼーションの中でも、大変興味深い新しいビジネスモデルであるといえる。 第2に、顧客にとっての価値を高めるために、より効率的に、円滑に業務を遂行できるようにするシミュレーションを行ってみたいと考えている。太田・片岡(2020)「S&OPから見た伝統的管理会計の陥穽」『経営会計レビュー』第1巻第1号(45-62頁)のモデルを拡張し、ソリューション提供事業者における利益最大化問題にアプローチすることが有意義であるといえる。 今後、伝統的原価計算にみられるコストと収益の対比だけではなく、顧客にとっての価値を組み込んだ不等式を基礎とする価値主導型原価計算に着目し、研究を発展させることが可能である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延により、当初予定していた企業へのインタビュー調査や学会報告等のための出張ができなかったため、差額が生じた。 次年度において継続する、企業へのインタビュー調査および学会報告を行うために使用することを予定している。
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