2022 Fiscal Year Research-status Report
日本型近代家族における「手作り料理」の意味の変容とその現代的な帰結
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22K01891
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
野田 潤 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 講師 (60880755)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 家族 / 親密性 / 食 / 愛情 / 近代日本 / 現代日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の家族の近代性を「親密性」や「愛情」という側面から描き出すことを目的とし、「食」という局面にテーマを絞って実証的な分析を行うものである。1年目である2022年度は、まず家族の親密性をめぐって1990年代から現在に至るまで国内外で展開された重要な理論研究をリサーチし、理論枠組の構築および課題の整理をおこなった。具体的にはA.ギデンズやU.ベックらが中心となって展開された、再帰的近代における親密性の変容についての議論をリサーチし、欧米と日本の社会状況の違いや、ギデンズの理論枠組ではとらえきれない部分についての整理をおこなった。ギデンズによれば「純粋な関係」の成立のためには「選択」の際に個人による自発性が確保されていること、および選択肢の複数性が確保されていることが必要である。しかし現代日本の家族をめぐる社会状況は、長引く不況や長時間労働の慣行、家事負担の著しいジェンダー格差の継続などがあり、諸個人にとっては決して十分な選択肢が確保されているわけではない。 次にこれと並行して、近代家族の情緒的関係をめぐる重要な実証研究をリサーチ・収集し、理論枠組の精緻化と補強をおこなった。特に近年では日本の家族の情緒的関係を対象として、近代家族の複数性や重層性を描き出す実証研究が多く出ているが、そこでは夫婦関係と親子関係がそれぞれ別個に検証されることが多かった。本研究ではこれをふまえ、親子関係と夫婦関係の相互の連関性をも分析していく必要があることが分かった。 また2022年度はこれらの作業と並行して、「食」をめぐる様々な書籍や雑誌記事・新聞記事を閲覧し、分析対象とするべきテクストの予備調査と検討をおこなった。さらに方法論関係専門書籍を収集し、ドキュメント分析の手法の精緻化を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の計画では、日本の近代家族について論じた既存の家族論を整理するとともに、関連領域(親密性や食をめぐる国内外の重要な理論研究と実証研究)をリサーチ・収集し、分析枠組の構築と補強・精緻化をめざす予定であったが、こうした理論・分析枠組の精緻化については当初の予定以上に順調に進行している。 一方で、20世紀初頭から現代にかけての家庭料理・手作り料理に関する言説資料については、テクストの選定に時間がかかっており、実際の収集開始には至っていない。しかし「食」をめぐる先行研究や、当時の新聞・雑誌記事の複数の予備調査をおこなった結果、1960年代後半~1970年代頃が「手間のかかる手作り料理=愛情の証」という言説が誕生した転換点の時代であろうという予見を得ることができた。さらに2000年代~2010年代には夫婦関係ではなく「子ども」を中心に据える形で「手間のかかる手作り料理=愛情の証」という言説が生き続けていることも浮かび上がってきた。したがって、2023年度はこれらの時期のいくつかの雑誌記事を中心とした分析資料を選定・収集というかたちで研究の目途がついている。
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Strategy for Future Research Activity |
「食」をめぐる関連領域の先行研究や、当時の新聞記事を多数リサーチした結果として、1960年代後半~1970年代にかけて、言説の大きな転換点があっただろうことが予測できたため、2023年度はこの時期の『主婦の友』や『きょうの料理』『栄養と料理』といったテクストの中から最適な分析対象を選定したのちに、目次および記事の収集に取りかかる。また2000年代~2010年代には夫婦関係ではなく「子ども」を中心に据える形で「手間のかかる手作り料理=愛情の証」という言説が生き続けているということが予測できたため、この時期は『きょうの料理』や『栄養と料理』といった料理雑誌に加えて『ひよこクラブ』や『Baby-mo』といった育児雑誌の料理記事もリサーチし、適切な資料を選定・収集する。また必要に応じて家庭科教科書も参照する。
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Causes of Carryover |
2022年度は家庭の事情から日本社会学会への参加を見送ったため、それにかかる旅費および参加費の部分で余剰が生じた。この差額は物品費に回す予定である。購入予定の書籍のうち、絶版のため古書を購入せざるを得ないものや、洋書の値上がりの影響などがあるためである。また2022年度は対象資料が確定しなかったため、資料の複写代も次年度繰り越しとなる。
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