2023 Fiscal Year Research-status Report
エスニック・メディアの先へ―異なる声の響く新しい媒体=空間に関する社会学的研究
Project/Area Number |
22K01921
|
Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
町村 敬志 東京経済大学, コミュニケーション学部, 教授 (00173774)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | エスニック・メディア / 社会学 / 移動・移住 / 公共圏 / エスニシティ / 移民 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目にあたる2023年度は、計画に従い、次の作業を進めた。 1)90年代エスニック・メディアの追跡研究とアーカイブ化: 1990年代に収集した資料に加え、関連施設で保存されている資料について整理を行い、データベース化を進めた。具体的には、日本定住資料館(群馬県大泉町)、海外移住と文化の交流センター(神戸市)、国立国会図書館などを訪問し、現物を確認するとともにリストを作成した。 2)デジタル化するエスニック・メディアの多面的進化に関する探索的研究: エスニック・メディアのデジタル化への対応を実際に確認するため、在日コリアン関係(大阪市、京都市、倉敷市)、日系ブラジル・ペルー人関係(太田市・大泉町、名古屋市、神戸市、岩倉市、浜松市、新潟市、広島市等)の個人・団体を訪問し、定住外国人、日本帰化者、移住1世・1.5世・2世、外国人支援団体リーダーなどから聴き取りを行うとともに、関連施設・商店で資料収集を行なった。 3)エスニック・メディアの系統的な変容モデルの構築: 国内外における最新の研究動向を確認するため論文検索を進めたほか、入手困難な新著について購入し、検討を進めた。これを通じて変容モデルの構築作業を進めた。 以上の結果、インターネットの登場とともに、移動者のコミュニケーション環境は劇的な変化を遂げたこと、同時に、メディア全体の脱場所化と再場所化が同時進行しつつあること、ただしそれらを支える諸個人の実践のスタイルや「マナー」にはなお一貫した点が見られることなどが明らかとなった。エスニック・メディアというフォーマットは有効性を失ったのかどうか、この点の判断のためにはもう一段大きな視点が必要とされる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は次の点でおおむね順調に進んでいる。 1)90年代エスニック・メディアの追跡研究とアーカイブ化: 1990年代から2000年代に活動を開始したエスニック・メディア制作・発行者からその後の展開や生活史について、各地で計11件の詳細な聴き取りを実施するとともに、通史を描くためのメディアのアーカイブ化作業を継続した。 2)デジタル化するエスニック・メディアの多面的進化に関する探索的研究: 一連の聴き取り調査や資料収集、アーカイブ作成を通じて、1980年代以降の日本について、次のような推移が浮かび上がってきた。すなわち、(1)指紋押捺拒否運動などを契機とする二世・三世の若者を対象とする在日コリアン日本語メディアの多型的な展開(1980年代)に続き、(2)新来外国人増加に伴う各種外国語メディアの誕生(1990年代前半)、(3)エスニック・メディアの叢生(多様化・ビジネス化・可視化)(1990年代後半から2005年頃)、(4)拡大するインターネット環境との融合模索(2005~2010年頃)、さらにSNSの普及、リーマンショックや日本社会の保守化を受けて、(5)既存エスニック・メディアの退出と生存戦略の模索、1.5世層による新しい挑戦、(6)増加する来住外国人による自立的・閉鎖的・国境超越的ネットワークの生成と新しいhyperconnectiveな境界領域の構想、という歴史的展開である。 3)エスニック・メディアの系統的な変容モデルの構築: 以上の変化過程が世界的にみてどの程度一般的なものか。海外の研究と比較していくなかで、グローバル化やデジタル化、移動・移動者の形態の多様化、メディア・エコロジーの変容などの要因を織り込みながら、移動とメディアの接合の形とそこにおける新しいエージェントのあり方について検討を進めていく必要を確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
三年目の最終年度に当たり、次の諸点を重点的に進める。 1)90年代エスニック・メディアの追跡研究とアーカイブ化: 関係する資料収集作業を継続する。分類項目の基準を検討しつつ、収集資料のアーカイブ化を進め、それらをまとめた報告書を作成する。 2)デジタル化するエスニック・メディアの多面的進化に関する探索的研究: エスニックな公論空間の変容について、各地で追加的な聴き取りと資料収集を進める。オンライン上のメディアについて、組織的な収集と調査を実施する。これらを総合しながら、21世紀初頭のエスニック・メディアの多面的進化を理解する上でのキー・エレメントを明らかにする。また、そこに姿を現す公論空間の特質、そこで、ヒューマン、モノ、プロトコル、データなどを編み合わせる実践とそれをハンドリングする主体のあり方を検討する。 3)エスニック・メディアの系統的な変容モデルの構築と成果公表: 上記の作業を踏まえ、エスニック・メディアの変容モデルの完成を目指す。最新のメディア研究・コミュニケーション研究の成果を取り入れるため、必要な書籍・資料を入手する。これらを踏まえながら、研究成果について論文作成および学会報告を行う。
|
Causes of Carryover |
エスニックな公論空間の変容と担い手の変化について明らかにするために、聴き取り調査と資料収集を継続してきた。その結果、とくに新しく居住人口が増加している出身国グループ(ベトナム、ネパール、インドネシアなど)についてはリアル空間のメディアではなくネット上の関係性が圧倒的に優越していることを確認した。このグループについては十分な訪問調査を実施できず、代わりにこれらを対象としたオンライン上の調査を計画するに至った。ただし各国語の調査票作成の困難から、年度内には実施に至らなかった。このため、2024年度については、当初予定していた研究活動に加え、持ち越されたこれら調査を実施するために、助成金を一体的に使用することを計画している。具体的には、追加分として、各言語による調査票の作成、オンライン調査実施費用などへの支出を予定している。
|