2023 Fiscal Year Research-status Report
ペスタロッチから留岡幸助への影響関係の解明:「非行・犯罪の予防」という思想の継承
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22K02082
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
広川 義哲 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20855522)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 留岡幸助 / 北海道集治監 / 監獄教誨 / ペスタロッチ / 非行・犯罪の予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、①昨年度の研究を継続させて、留岡幸助の著述・日記の分析、②明治期の監獄体制の整備に関する先行研究の整理、③『新旭川市』に収録されている北海道の各集治監の沿革(明治期に作成された文書)や、矯正協会が刊行している明治期の監獄教誨や監獄改良についての一次資料の分析、④犯罪や刑罰に照準してペスタロッチの著述の文献調査を行なった。 ①の作業を通じて、空知集治監時代に犯してしまった罪を悔いて善き行ないへと在監者たちを導きたいと強く志向していた留岡が、在監者たちの読書を重視していたことを確認した。 ③の一次資料の分析を通じて、北海道の複数の集治監において、教誨の成否が在監者たちの読書習慣に左右されると強調していたこと、さらに、明治期に作成された北海道の各集治監の実態についての調査報告書には、在監者たちの逃走に関する統計資料が記載されており、逃走し、かつ「未就縛」の在監者たちが少なからず存在していたことを確認した。たとえば、留岡が在籍した空知集治監において、1882(明治15)年の創設年から1891(明治24)年の間に逃走した在監者の数は354名、そのうち未就縛は115名だった。こうした逃走の実態から、「在監者たちの外面に欺かれることなく、その真意を把握すべき」という規範が監獄実践において成立し、同時に、「推し量ることの困難な在監者たちの真意」が読書習慣などの行状を促す教誨活動をさらに駆動させたことが明らかになった。 ④については、ペスタロッチの著述のなかに児童保護に関する思想を発掘するという研究開始時での計画をふまえて、たいていの場合に教育思想の領域で検討・考察されるペスタロッチの小説『リーンハルトとゲルトルート』に着目した。そもそも罪びとたちへの処罰のあり方が物語展開のひとつの軸となっているこの小説には、犯罪の予防という着想が重要な点として位置づけられていることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始時での初年度計画の留岡幸助の著述・日記の分析を通じて、家庭学校の創設へとつながった、北海道集治監時代での留岡の教誨に関する思想・実践について明らかにすること、とりわけ、在監者たちの改悛の困難さに起因した犯罪の予防という留岡の着想の萌芽に関する解明はおおむね達成できつつあると考える。しかし、ペスタロッチから留岡への影響関係を探る本研究にとってのもうひとつの重要な課題、すなわち、ペスタロッチの思想に社会福祉や児童保護に関わる思想を発掘するという課題については、ペスタロッチがのこした著述群の量的な幅のため十分に達成できておらず、「やや遅れている」と自己点検により評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、「やや遅れている」と自己評価したペスタロッチの著述群の読解作業を進めつつも、研究開始時に立案した研究3年度目の研究計画どおりに、欧米においてペスタロッチの思想的影響を受けた諸施設(児童保護や矯正・感化に関わる施設)についての記録・報告等の文献調査に努める。
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