2022 Fiscal Year Research-status Report
高校歴史系科目の学習成果を可視化する論述課題とルーブリックの開発
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22K02245
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
中村 洋樹 四天王寺大学, 人文社会学部, 講師 (30824651)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 歴史的リテラシー / 精神の習慣 / 歴史論述 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新設科目「歴史総合」を対象に、高校歴史系科目の学習成果を可視化する論述課題とルーブリックを開発するとともに、多くの教師がこれらを開発できるような方法を提案することである。当初の計画では、本年度は「歴史総合」の学習成果を可視化する論述課題を開発する予定であったが、近年、これまで研究代表者が取り組んできた米国の歴史教育に関する研究に対する批判、特に生徒にとってのレリバンス(学ぶ意義・意味)の観点からの批判が行われてきていることを踏まえ、そもそも高校歴史系科目の学習成果とは何かを明らかにする作業を優先させることにした。 具体的には、米国ブリガムヤング大学教授のJ・D・ノークスが提起している歴史的リテラシー概念を検討した。ノークスは歴史的リテラシー概念を「歴史家のコミュニティにおいて承認されている方法を用いて、テクストや歴史学のなかで評価されている資料を適当な方法で交渉(読解)し、創り出す(書く)能力」と定義している。この定義だけであれば、従来の研究と同様に、歴史家のように読み書きする能力の育成を志向しているようにみえる。しかし、ノークスは歴史的リテラシー概念を「方略」と「精神の習慣」の2つに区分し、従来の研究では看過されてきた精神の習慣に目を向けている点が注目に値する。特に注目されるのは、ノークスが複数の歴史家の歴史論述プロセスを実証的に検討することを通して、精神の習慣の具体像を明らかにしている点である。具体的には、①談笑や追認を含む礼儀正しい討論、②異議を唱えることや証拠を使って解釈を擁護することを含む粘り強さ、③可能性の検討のプロセスを通じた熟議という精神の習慣を挙げている。これらに焦点を当てることは市民形成にとって意義がある。このようなノークスの研究から、歴史的思考力だけでなく、精神の習慣を含みこむ形で、生徒の学習成果を捉えることの重要性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
(1)ノークスの歴史的リテラシー概念を検討した結果、これまでの研究では看過されてきた「精神の習慣」を射程に入れることの重要性を導き出し、その成果を学会発表の形で公表することができた(その内容については、令和5年度に活字化する予定である)。その機会に、他大学の先生方から、今後の研究の進め方について有益な助言を得られた。 (2)しかし、ノークスの歴史的リテラシー概念の検討を通して得られた知見を、本科研の主題というべき、「歴史総合」の学習成果を可視化する論述課題の設計やルーブリックの開発につなげることができなかった。 (3)高校の現職教員が多く参加する高大連携歴史教育研究会のパネル報告においてコメンテーターを担当し、また事前の打ち合わせ段階においても、研究代表者のこれまでの研究内容について報告する機会を得たものの、その機会を上手く活用することができず、本研究課題に関心を持って頂くことができなかった。そのため、研究協力者を探すことに時間を要した。 (4)その上、研究分担者として加わっている研究課題の成果物(学術書)の執筆に想定以上に時間を要したため、本研究への協力依頼や打ち合わせの開始に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)令和4年度中に公立高校(進路多様校)の教員(1名)に研究協力を依頼し、調査を実施することが可能になったため、令和5年度は研究実施計画に沿って、「歴史総合」の論述課題とルーブリックの開発を進める。令和5年度の前半は、研究協力者の教育観や授業づくり、そして対象クラスの生徒の状況の把握に努め、後半から論述課題とルーブリックを開発・試行し、生徒の学習成果を可視化するものとなっているかどうか検討したい。 (2)進路多様校とは異なるタイプの学校に勤務する教員にも研究協力を依頼し、速やかに調査を実施できるよう調整を行う。ただし、研究代表者のこれまでの研究内容や本研究課題について、高校の先生方に興味・関心を持って頂けていないのが現状である。そのため、高校の先生方が多く参加する学会や研究会において、本研究課題が目指していることやその意義を積極的に伝える努力をしたい。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、高校歴史系科目における学習成果に関する理論研究を優先させたため、当初予定していた学校現場での研究(高校での授業観察等)を実施することができなかった。また、口頭発表を行った学会が近畿圏内で開催されたため、当初想定していたよりも旅費を抑えることができた。そのため、次年度使用額が生じた。令和5年度は、令和4年度に実施できなかった授業観察等を実施する。
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Research Products
(3 results)