2022 Fiscal Year Research-status Report
不登校の大学生を対象とした課題解決型短期カウンセリングプログラムの構築
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22K02681
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹中 菜苗 大阪大学, キャンパスライフ健康支援・相談センター, 講師 (20510291)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 大学生の不登校 / カウンセリング / 現代の若者にとっての「大人」 / 時間の感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度はまず、不登校を主訴として学生相談室に来談した事例について、筆者の所属する相談室のデータベースに2021年度までに蓄積されたデータをもとに実態調査を行なった。その結果、当初の仮説通り来談回数は5回以下が最も多く、その内訳としては当事者以外の者からの相談に対するコンサルテーション、及び中断事例が半数以上を占めること、他方では数年に渡り長期化する事例も一定の割合で存在することが確認された。 次いで、「課題解決型短期カウンセリングプログラム」の構造を検討するため、これまでに筆者が担当した不登校の大学生の事例を中心に見直し、加えて、新たに筆者が担当することになった不登校の事例では、来談学生との関係性を見極めた上で、適切と思われた事例においては、カウンセリングの進め方について明確な目標設定と回数制限を設けるという方法について話し合いを行なった。これらから、当初想定していた明確な目標と回数を設定する短期カウンセリングプログラムは、それを導入するタイミングに注意が必要であり、長く不登校の状態を続けてきた学生の場合、そのようなプログラムに乗るにはレディネスが不十分であることが多いと考えられた。「短期」「課題」という言葉はインパクトが強く、また、「課題」を特定すること自体が困難な事例が多く、そこを整理するために、まずはある程度の時間をかける必要があることが明らかになった。 そこで、先の不登校の事例の検討から「自立」や「大人になる」ということを、漠然とではあるが、不登校学生が「課題」と感じている様子が共通して認められたため、まず、2022年度後半には現代の我が国の大学生全般を対象に、「大人になる」ということがどういうことなのかを調べるアンケートを実施し、その分析を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定に従い、データベースを用いた実態調査は完了することができた。しかしながら、適切な「短期カウンセリング」の構造を考えるにあたっては、不登校の大学生が過ごしている時間感覚と「短期」という感覚のズレは大きいことが明らかになり、カウンセリングプログラムの構築には、予想以上に時間がかかりそうである。 不登校学生の事例の検討からは、不登校学生が「自立」や「大人になる」という課題を漠然と意識しながらも、足を踏み出せないでいるという共通性が認められた。現代の我が国の大学生の多くが忙しなく大学の四年間を走り抜ける中、不登校の学生は長く大学に留まり続ける。多くの大学生が「大人になる」ということをどのように捉えており、不登校の大学生が、そのどこに難しさを感じているのかを知ることが、不登校の学生の心理理解に有用であると考えられた。そこで2022年度は、国外でも多くの知見が集積されているMarkers of Adulthoodという指標を用いた調査を実施し、我が国の大学生が「大人になる」ということをどのように捉えているいのか、国際的にそれはどのような特徴があるのか、という点について検討を行った。 不登校へのカウンセリングプログラムの構築および導入という点では、当初の予定から遅れているが、今年度に実施した調査は、より適切なプログラムの構築のためには必要なプロセスである。特に大学生の不登校は我が国に特徴的な現象であり、実施した調査では国際比較も可能になることから、不登校という現象について、より理解を深めることにつながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度にMarkers of Adulthoodを実施したことにより、「大人になる」という観点から我が国の大学生の特徴を把握し、国際比較が可能になった。今年度は先の調査結果の考察を、より文化的な視点から深めるとともに、同様の調査を30代以降の世代を対象として実施し、現代の大学生が直面している「大人になる」という意識の特徴を明らかにすることを予定している。その知見を含めて、不登校の大学生へのカウンセリングのあり方についてさらに具体的な検討を進める。 また、2023年度より筆者が国立大学から芸術系の私立大学に異動したことにより、これまで対象として想定してきたような国立大学の不登校とは異なる「不登校」の事例に出会う可能性が高い。上述のような「集団」を対象とするアンケート調査に並行して、中規模私立大学の不登校の事例についても検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
おおよそ計画通りである。ノートパソコンの購入を想定していたがタブレットの購入に変更したため、残余金がでた。
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