2023 Fiscal Year Research-status Report
資質・能力育成を志向する中等化学教育のためのグリーンケミストリー教材の開発と評価
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22K02989
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
今井 泉 東邦大学, 理学部, 教授 (80711390)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | グリーン・サステイナブル ケミストリー / 生分解性樹脂 / GSC評価 / 化学実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)生分解性樹脂であるポリグルタミン酸(PGA)の塩基と酵素による分解過程を追跡するグリーンケミストリー教材を開発した。また、(2)日本のグリーンケミストリーであるグリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)の概念及び「四軸法」を活用し、環境負荷に安全性を加味し、中等教育で活用可能な「環境負荷・安全性(Envieonmental Load and Safety)評価」(ELS評価)の評価方法を新規に開発した。 (1)では、塩基(水酸化ナトリウム)と酵素(プロテアーゼ)によるPGAの反応経過を追跡した。特に、PGAのプロテアーゼによる酵素分解は化学的に新規な反応で、日本の高等学校理科教科書に掲載されている身近な酵素で生分解性樹脂を分解した。開発した実験を高3自由選択科目における探究実験授業として、令和5年10月5日・12日に立教新座高等学校で実施した。その成果を日本化学会第104春季年会で口頭発表した。 (2)では、GSCの概念及び「四軸法」を踏まえ、中等教育に即した評価基準とするために、系を化学製品から「理科授業における化学実験」に変更し、環境負荷に関する評価軸を「地球からもらうエネルギー量」、「地球からもらう資源量」、「地球へ戻す廃棄物量」の三軸とした。安全性に関する評価軸は、国内外における安全性評価の現状についての調査結果から構築した。その成果を日本化学会第104春季年会で口頭発表した。また、GSCの概念から新規に構築した環境負荷と安全性の視点を取り入れた実験教材の評価方法について、令和6年7月28日にマレーシアで開催された9th Network fo Inter-Asian Chemistry Educators Conferenceでポスター発表し、日本科学教育学会『科学教育研究』に投稿した査読付論文は、令和6年2月19日採録となり、現在、印刷中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グリーンケミストリーは非常にグローバルなテーマで、多文化な化学教育の教材に適していることが、昨年度(令和4年度)の(1)タイの高等学校2年生への授業実践や、(2)タイの教育学部の学生への授業実践から明らかになった。 本年度は(1)の関連として、生分解性樹脂を用いた実験は、高校生にとって単なる化学実験に留まらず、現実社会の課題の解決に結びつき、多くの生徒に科学的探究の必要性が実感できる内容である。すなわち、発展的な内容に関して生徒が主体的に探究する学びとなる。本年度は第二段階として、新規開発したPGAのプロテアーゼによる酵素分解実験を、高3自由選択科目における探究実験授業として立教新座高等学校で実施し、その有効性を明らかにすることができた。 また、本年度は(2)の関連として、GSCの概念及び「四軸法」を活用し、環境負荷に安全性を加味し、中等教育で活用可能な「環境負荷・安全性(Envieonmental Load and Safety)評価」(ELS評価)の評価方法を新規に開発した。具体的には、系(system)を化学製品から「理科授業における化学実験」に変更し、環境負荷に関する評価軸を「地球からもらうエネルギー量」、「地球からもらう資源量」、「地球へ戻す廃棄物量」の三軸とした。安全性に関する評価軸は、国内外における安全性評価の現状についての調査結果から構築した。本年度の(2)の成果は査読付論文として採録され、現在、印刷中である。 以上の(1)(2)の継続研究の成果により、東南アジアの材料も加えた生分解性樹脂に関連したグリーンケミストリー実験教材は、発展的な内容に関する探究的な学習の教材となりうることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)本年度までに、生分解性樹脂の分解過程を追跡するグリーンケミストリー教材については、タイの高校2年生に実施し、また、日本の高校3年生に発展的な探究課題として実施した。そして,次年度は、発展的な内容に関する探究的な学習の教材として東南アジアの材料を用いたグリーンケミストリーに関する教材は,東南アジアと日本の高校生に科学的探究の必要性が実感できる内容となるのか,また,科学的な問いや実験方法を考えさせる探究的な学びを実感させることができるかなど, 探究的な学びの指導に必要な要素を解明する。 次年度後半では、ライフサイクルアセスメントの視点で、分解した生分解性樹脂を分離・精製し、元の生分解性樹脂を合成する実験教材を開発し、評価する。 (2)本年度までに、マイクロスケール実験をはじめ、中高の理科(化学)実験を環境負荷と安全性の視点から新規に構築した評価軸を用いて評価したため、次年度は、高校生がその評価軸をもとに、環境負荷と安全性に配慮したグリーンケミストリー化学実験を設計し、実験を行うことが可能となるような方策、具体的には、探究的な学習の実現に向けた展開例を提案する。 また、(2)について、8月9日に開催される令和6年度 全国理科教育大会(東京大会)でポスター発表し、ELS評価を活用した探究的な活動の有効性について考察する。
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Causes of Carryover |
令和5年度には、開発した教材を活用した資質・能力育成を志向する授業デザインの中核をなすグリーンケミストリー実験教材に必要な生分解性樹脂の分解酵素の価格が高騰し、実験材料費が増えてしまった。そのため、タイと日本で実施してきた授業実践をマレーシアで実施することができなくなり次年度使用額が生じた。 次年度使用額と令和6年度の請求額については、実験器具費、実験材料費、研究打ち合わせ・学会発表に係る旅費等に使用していく予定である。
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Research Products
(8 results)