2023 Fiscal Year Research-status Report
視聴覚コンテンツにおける映像と音楽の適合性の効果の実験心理学的検討
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22K03199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅野 倫子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (40553607)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 視聴覚統合 / 映像 / 音楽 / 没入感 / 認知心理学 / 実験心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,短い映画のような視聴覚コンテンツにおいて映像と音楽が「適合している(適合していない)」と感じられる条件を特定し,そのように感じられる際の認知処理を実験心理学的手法により明らかにすることである。一般的な視聴覚統合では視覚と聴覚のタイミングや意味が不一致だと統合が促進されないが,映像と音楽の場合は,視聴覚情報の印象の不適合により,元の視覚情報や聴覚情報にはない印象(皮肉等)が創発される可能性が指摘されており,特殊な視聴覚統合として位置づけることができる。この着想に基づき,映像と音楽の適合性に寄与する情報の処理レベル(低次の知覚,中間的な感覚間協応,感情・意味等の高次処理)と,そのレベルが感性的な効果の生起のしかたに影響する可能性について,実験心理学的手法により明らかにする。 2年目である2023年度は,研究の理論的側面の深化と,実証研究の実施の両面において,研究を進展させた。前者に関しては,映画など視聴覚コンテンツの鑑賞や読書における没入やその関連概念についての理論および実証研究の調査を行い,本研究課題の実験に生かすとともに,レビュー論文を『心理学評論』誌にて発表した(張・浅野, 2023)。 後者に関しては,1年目に引き続き,短い視聴覚コンテンツにおける映像と音楽の感情(感情価・覚醒度)における適合性が,没入感の強さに与える影響を一連の心理学実験により検討した。その結果,映像と音楽の感情価が主観的に調和するときに物語への没入感が強まる可能性や,それに鑑賞態度などの複数の要因が複雑に影響することを示唆する結果が得られた。一部の実験の結果を『認知科学』誌にて発表した(張・浅野, 印刷中)。また,低次~中間的処理レベルの調和性に関する研究として,音楽を聴きながら物語文章を読む際に,音楽と文章それぞれに感じられるテンポ感の調和性が没入感等の印象に与える効果も検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目は,1年目から継続的に行ってきた,映像と音楽の感情の調和性が没入感等に及ぼす影響の実験研究を一層進展させ,学術論文として発表することができた(張・浅野, 印刷中, 『認知科学』)。また,関連する理論研究や実証研究の調査結果をレビュー論文として発表することができた(張・浅野, 2023, 『心理学評論』)。このレビュー論文の最後に,独自の映像作品への没入過程モデルを提案しているが,そのモデルは,映像作品の物語世界への没入に関する先行研究のモデルを発展させたもので,物語世界だけでなく,芸術的表現形式への没入プロセスも説明しうるものとなっている。芸術的表現形式への没入はこれまでに研究があまり進んでいない分野であるが,この観点を取り入れることで,映像と音楽の関係性によっては映像にも音楽にも含まれない印象(皮肉など)が感じられる現象なども説明できる可能性がある。このような理論面の充実を2年目に行ったのは当初研究計画とは異なるが,さらなる実験研究の理論的枠組みの強化に繋がっており,総合的に見れば本来の研究目的の達成へと近づいている。また,当初予定とはやや異なる,文章と音楽を用いた検討ではあるが,テンポなど,視聴覚情報間の情報の低次~中間的処理レベルの調和性の影響の検討にも着手できた。以上のことから,おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1,2年目に引き続き,さまざまな情報処理レベル(比較的低次の知覚情報処理,感覚間協応,感情)における映像と音楽の適合性の認知処理,および,それが生む感性的効果についての実証研究を行う。その際,2年目に提案した映像作品への没入過程モデル(張・浅野, 2023)を理論的枠組みに据えることで,一連の結果の統合的解釈が可能になり,研究を一層推進することができると考える。学術論文誌および学会等での研究成果発表も引き続き積極的に行う。
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Causes of Carryover |
当初は当該年度中に論文出版費用の請求が発生すると見込んでいたが,論文の採録決定タイミングの関係で請求が翌年度になった。また,当初は当該年度中にもう1回,実験研究の成果についての学会発表を行う予定でいたが,さらなる実験結果を積み重ねてから発表するのが最適であるという判断に至り,発表を次年度に持ち越した。以上の理由により次年度使用額が生じており,従って,次年度使用額は採録済みの論文の出版費用と,1回分の学会発表費用に充てる。翌年度分として請求した助成金は,当初の計画通り,それ以降の研究に関する論文出版(英文校閲などを含む)や学会参加などの成果発表費用等に充てる。
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