2023 Fiscal Year Research-status Report
屈折波およびガイド波を伴う波動伝播に対する漸近解析に基づく散乱理論
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22K03390
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
門脇 光輝 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (70300548)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 散乱理論 / 放射条件 / 自由境界付き等方弾性波動伝播 / P波,S波, R波 / 漸近解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
磯崎洋氏(筑波大)と渡辺道之氏(岡山理科大)との協議に基づいて、研究対象の1つとして掲げている摂動された自由境界付きの3次元半無限領域における等方弾性波散乱に対する放射条件を確定して、それに基づいて、散乱体への入射波(平面波)の入射に応じて発生する散乱波(球面波)の一意性を示した(口頭発表2件)。これは、既に得られている散乱波の空間遠方での漸近挙動に基づいている(論文として掲載済み)。具体的には、漸近挙動は、境界から離れた領域ではP波とS(SV+SH)波それぞれから由来する2つの3次元球面波が支配的である一方、境界付近の領域はSH波由来の3次元球面波とR波由来の2次元球面波が支配的である。このことを踏まえて、それぞれの領域の各散乱波ごとに放射条件を決定した。この中でKapradze条件とSommerfeld条件の必要十分性も論じた。結果しては、境界付近の領域のR波由来の散乱波以外ついてはSommerfeld条件に条件を追加することでKapradze条件と必要十分となることが判明した。R波については条件を追加しても十分条件に留まっている。 Kapradze条件は、摂動された3次元全領域における等方弾性波散乱(R波由来の散乱波は現れない)の放射条件として知られている。これは弾性波動伝播を記述する方程式(正確には自己共役作用素)を直に反映しており、弾性波散乱においては標準的と考えらている条件である。一方、Sommerfeld条件は量子力学散乱や音響波散乱に対してよく知られており、散乱波の漸近挙動を直に反映したものである。互いの見た目にギャップがあることから、これらの関係を論じることは、数学的には物理的にも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
散乱波の一意性を示すためには、Kapradze条件を経由する必要がある。このことは、先に述べたように、弾性波動伝播を記述する自己共役作用素の構造を考慮すると不自然ではない。一方で、本研究で構成された散乱波の漸近挙動は、球面波によって記述されることから、放射条件としてはSommerfeld条件が自然であると考えられる。実際に、構成された散乱波はSommerfeld条件を満たす。とはいえ、Sommerfeld条件のみから直ちにKapradze条件が従うわけではない。Kapradze条件に到達するには、先に述べたように条件の追加を必要とした。この条件については、令和5年度の早い時期に判明しており、構成された散乱波がSommerfeld条件とともに、この条件を満たすことも確認できていた。しかし、その段階ではSommerfeld条件プラス追加条件は、Kapradze条件の十分条件に留まっていた。そして、互いは必要十分になりうるか?という観点で研究を続けたために時間を要することになった。結果としては、先に述べたように、R波由来の散乱波以外については、満足できる結論を得た。具体的には、境界から離れた領域では、P波に関しては回転(rot)、S波には発散(div)に関する条件をそれぞれ追加し、境界付近ではSH波に発散(div)に関する条件を追加することで必要十分になることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
R波由来の散乱波に対するKapradze条件とSommerfeld条件の必要十分性について、引き続き検討したい。研究の肝は、Sommerfeld条件に追加する条件である。ここでいうR波由来の散乱波はSH波由来の散乱波の直交成分であるため、極めて小さいながら、P波とSV波由来の散乱波を含んでいる(完全にR波由来の散乱波だけを分離して解析することできない)。このことから現在の追加条件は、技術的な理由で設定された感は否めない。今後は、この条件を今一度、精査した上で、必要十分に至らしめる条件を探り出したい。その一方で、現在の条件での投稿も念頭に入れた準備も行う。 上記と並行して、研究対象として掲げた摂動された3層媒質からなる3次元無限領域における音響波散乱に対する空間遠方での漸近解析に取り掛かりたい。扱う方程式・作用素はスカラーではあるが、自由境界付きの3次元半無限領域における等方弾性波散乱で現れる2次元散乱波はR波に関する1個であるのに対して、加算無限個の2次元散乱波が現れることが見込まれている。さらに、これらの存在の影響は、同時に現れる3次元散乱波にある特異性として現れることも見込まれている。問題解決の肝は、この特異性の対処にある。これについては、これまでの研究で得た知見をもとにしてあたる。また。可能ならばもう1つの研究対象である真空とメタマテリアルの2層媒質からなる3次元無限領域における音響波散乱の研究準備に取り掛かりたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、3次元半空間における弾性波散乱の放射条件について、Kapradze条件とSommerfeld条件の必要十分性の再確認・精査を行ったことから、結果の最終的な取りまとめを延期することになったためである。このことから、当初予定していた成果発表の件数が減ることになり、学会・研究集会参加のための旅費の支出額が予定を下回った。さらに、発表用として考えていたノート型パソコンの購入を取り止めることになった。また、開催はしたものの彦根での研究集会の講演者および参加人数が、当日の悪天候などにより当初予定よりも少なかったこともあり、発表・参加者の旅費と開催補助ための人件費の額が予定を下回った(結局人件費の支出はなし)。 令和6年度の使用計画としては、3次元半空間における等方弾性波散乱の放射条件について何らかの形でまとめて、学外でその結果発表を積極的行いたい。先ずはその旅費として使用する。加えて、その発表用のノート型パソコンの購入費にも充てる。また、次の課題に向けた研究打合せや情報収集として課題に関連する研究集会への参加のための旅費としても用いる。
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