2022 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study of emergent quantum phase driven by orbital-lattice entanglement
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22K03507
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩原 直也 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (90903188)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Jahn-Teller効果 / 振電秩序 / スピン軌道相互作用 / 多極子相互作用 / RIXS / スピン軌道Mott絶縁体 / 4d/5d遷移金属化合物 / ダブルペロブスカイト |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、(1)動的Jahn-Teller(JT)相を取り扱う理論的枠組みの開発と、(2)4d, 5dダブルペロブスカイトにおける振電励起と非弾性共鳴x線散乱(RIXS)スペクトルに関する理論研究を行なった。 (1) 5d1立方ダブルペロブスカイトの各サイトにおいて動的JT効果が発現する。この安定化エネルギーはサイト間の磁気的相互作用などよりも1-2桁大きい。この事実に基づき、動的JT効果を考慮して低エネルギー状態を記述するための模型を導出した。その模型の秩序状態を、平均場近似を用いて決定した。このような秩序状態を「振電モーメント」を用いて特徴づけた。さらに、温度依存性を計算し、各秩序相に現れる相転移を調べた。我々の理論は、従来の理論とは異なり、5d1ダブルペロブスカイトの全ての秩序相の特徴を説明できる。この研究で開発した振電秩序の理論は、他の系にも容易に拡張でき、さらに量子液体相や外場誘起相などの探索の基礎になる。 (2) Ruイオン(4d4)およびIrイオン(5d5)を含む立方対称な塩化物において、振電励起とRIXSスペクトルの関係を理論的に示した。励起電子状態において動的JT効果が発現することを第一原理計算で示し、それに基づきRIXSスペクトルの(i)形状と(ii)温度依存性を再現した。この研究結果は、私が知る限り、4dおよび5d化合物で動的JT効果の発現が実験データに明確に現れることを直接証明した初めての例である。本研究結果は、RuやIrと時間反転の関係にある4d2, 5d1化合物においても、動的Jahn-Teller効果が発現することを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の1年目の予定は、動的Jahn-Teller(JT)相の理論的手法の開発であった。動的JT物質を記述するための (a)擬スピン模型を導出し、(b)それの相図のシミュレーション、(c)外場印加等により発現する新奇量子相の探索を含んでいた。このうち、2022年度に達成できたのは(a)と(b)である。(a)の模型の導出については、大体想定通りであった。動的JT状態(振電状態)の擬スピンを、軌道および座標演算子を振電状態に射影することで定義した。(b)のシミュレーションも、平均場近似の範囲で達成した。(a), (b)の結果に基づいて、実際の5d1化合物が示す秩序相を全て説明できた点は、当初の予定以上の成果であった。この研究成果は、論文としてまとめて投稿中である。 1年目には、RuやIrを含むダブルペロブスカイトの共鳴非弾性x線散乱(RIXS)に関する研究も行なった。いずれも動的JT物質ではないが、研究対象の一つであるダブルペロブスカイトと同じ構造を有しており、さらに励起電子状態において動的JT効果が発現し得る。特にRu化合物についてのRIXS実験が2021年に発表され、励起状態に動的JT効果が発現するか否かが問題とされていたこともあり、動的JT系のRIXS理論の開発と応用を行なった。Ru化合物に関する研究は、論文としてまとめ、2022年度中に投稿した。Ir化合物に関する研究も論文執筆中である。一連のRIXSの理論は、2年度以降の実験データの解析のために開発する予定であったところを、1年目に行なったことになる。 全体として、1年目で行うべき研究のコアとなる部分は完成し、2年目に行う予定の研究の一部を完成させた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究課題は、主に4d1/5d1ダブルペロブスカイト化合物のスピン軌道格子エンタングル多極子相の研究を予定している。動的JT模型の相互作用パラメータを第一原理的に導出し、その模型と1年目に開発した理論的枠組みを組み合わせて、基底状態について定量的に調べる。理論解析の妥当性は、実験データを再現することで確認する。実験データには、赤外分光やRIXSが含まれる。スピン軌道格子エンタングル多極子相が様々な分光スペクトルに対して及ぼす影響を明らかにし、実験的にそれらの相を確認するための指針を示す。さらに、交差相関応答が発現する可能性について調べる。 これとは別に、1年目に達成できなかった外部印加による新奇量子相の探索に関する研究を続ける。磁場や歪みに対する相図の計算を行う。これらの研究は、量子液体的振る舞いを示す物質を調べるために役立つことを期待している。 1年目の成果を踏まえて、(i) 5d1ダブルぺロスカイトにおける振電秩序が現れることの確認と、(ii) それらを共鳴x線散乱スペクトルに及ぼす影響についての解明を最重要課題とする。その後、スピン軌道格子エンタングルメントにより駆動される新奇物性の解析、そして外場印加による量子相の探索の研究を行う。
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Causes of Carryover |
当初、計算機と増設用のメモリーを購入する予定であったが、メモリーの増設を他の寄付金から支出することにした。 来年度は、計算機を安定に運用するために無停電電源装置(10万円)を購入する予定である。2022年度に落雷により停電し、計算機の電源が切断されることがあったため。また、得られた成果を複数の国際会議で発表する予定である。その参加費や旅費に使う。
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Research Products
(7 results)