2022 Fiscal Year Research-status Report
Dynamics of topological phases emerging from electron correlation
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22K03508
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諏訪 秀麿 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60735926)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トポロジー / 電子相関 / 異常ホール効果 / イリジウム酸化物 / ハバード模型 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
電荷・スピン・軌道自由度のエンタングルメントがもたらす新奇現象は物性物理学における大きな研究テーマである。特に、スピン軌道結合由来のトポロジカルな性質と、電子相関から生じる磁性が互いにどう影響するかは重要な問題となっている。その物理的機構を解明するための基礎モデルとなるのがSU(2)ゲージ場を持つハバード模型である。ハバード模型は電子相関効果を記述する最も代表的なモデルであり、スピン軌道結合の効果はSU(2)ゲージ場を通じて現れる。この模型の応答や励起構造を既存手法で計算することは容易でなく、計算手法の開発が求められていた。そこで我々は準古典近似を用いてこの模型のダイナミクスを計算する手法を開発し、動的スピン構造因子等の高精度計算を可能とした。 SU(2)ゲージ場を持つハバード模型は、5d軌道電子系であるイリジウム酸化物薄膜の物性をよく記述すると期待される。我々は実験家との共同研究を通じて、擬二次元系である薄膜物質(SrIrO3)1/(CaTiO3)1の応答を調べた。この物質では、酸素イオン八面体の傾きによる電子バンドの非自明なベリー曲率と、それに伴う異常ホール効果が生じる。我々はホール伝導度測定と共鳴非弾性X線散乱実験を行い、結果を理論的に解析した。非自明なゲージ場の効果で非共線的な磁気秩序を取ること、磁気秩序の発現により映進対称性が破れトポロジカルに非自明なバンドが生じること、そのバンドへの電子励起から異常ホール効果が現れることを明らかにした。興味深いことに、トポロジカルな効果と電子相関効果の非自明なせめぎあいにより、異常ホール伝導度が温度に対して非単調な振る舞いを見せる。これらの結果をまとめた論文を Physical Review X から出版した。これらの研究成果はトポロジーと電子相関の協調現象を解明し、その効果を利用した将来的な工学的応用にもつながると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電荷・スピン・軌道の自由度が複雑に絡んだ系の計算は容易でなく、特にダイナミクスの計算は理論的な扱いが難しい。一方、共鳴非弾性X線散乱等の実験技術の進歩により、比較可能な計算手法の開発が求められてきた。今回、開発した計算手法を用いて、5d軌道電子系であるイリジウム酸化物薄膜の物性を調べ、実験結果とほぼ一致する結果を得ることに成功した。また従来用いられていたスピン模型では実験結果を説明できないことを示し、非自明なパラメータ領域である中程度の結合領域にイリジウム酸化物薄膜が位置することを明らかにした。これらの成果は、電荷・スピン・軌道自由度が複雑に絡み合う5d軌道電子系の物性現象の理解に大きく貢献すると期待される。以上を踏まえて、本課題はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はスピン軌道結合と電子相関がどちらも本質的な役割を担う5d軌道電子系の物性のさらなる解明を計画する。本研究対象の一つであるペロブスカイト型イリジウム酸化物は、元素置換や薄膜を用いて結晶構造と電子バンドをさまざまにデザインすることができる興味深い系である。電子軌道が強い空間的異方性を有することから、スピン軌道結合がもたらすSU(2)ゲージは結晶構造に大きく依存する。ペロブスカイト型は層状構造をとり面内と面間の電子遷移の効果が大きく異なるため、単層系とは違い2層系では顕著なスピン異方性が生じる。2層系のバルク結晶であるSr3Ir2O7は電荷ギャップが小さな反強磁性体であり、圧力印加で磁気転移と金属絶縁体転移を起こすことが実験的に報告されている。興味深いことに、磁気転移近傍において、励起ピークのソフト化がラマン散乱で確認されている。しかしこの磁気励起のソフト化と相転移の起源は未だ明らかになっていない。今後はこの物質の相転移の解明、実験的に観測できる応答の予測、またその同定を計画する。
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Causes of Carryover |
年度末に海外の国際学会で研究発表を計画していたが、大学業務と重なってしまい参加することができなかったため次年度使用額が生じた。次年度以降の国際学会での発表を再度計画し、そのための参加費と旅費に使用する予定である。
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Research Products
(13 results)