2022 Fiscal Year Research-status Report
Initial data for numerical relativity simulations associated with standing waves
Project/Area Number |
22K03636
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
瓜生 康史 琉球大学, 理学部, 教授 (40457693)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 相対論・重力(理論) / 重力波 / 相対論的宇宙物理学 / 数値相対論 / 相対論的回転星 / 連星中性子星 / ブラックホール / クォーク星 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究成果として,イリノイ大(米国),マックスプランク研究所(ドイツ),華中科技大(中国)の研究者らと共同で,連星クォーク星の合体シミュレーションに成功した。このシミュレーションのために,本研究課題を含む科研費助成事業で開発してきた,数値相対論の初期データ計算コード COCAL(Compact Object CALculator)を用いて計算した,連星クォーク星の初期データを提供した。一般にクォーク星は中性子星よりコンパクトになるため重力場が強くなることと,クォーク物質は圧力がゼロとなる星の表面で密度が有限の値をとることから,数値計算の精度が悪化することが分かった。これらの数値誤差を補正するルーチンを加えることで,円軌道にある連星クォーク星の準平衡解を精度よく計算することができた。 次に,これまでにCOCAL上で開発してきた磁場を伴う相対論的回転星の計算コードを,星の外部がフォースフリー磁気圏となっている場合の解を求められるよう拡張した。これを用いて,極めて強い磁場を伴う相対論的回転星の平衡解を求めることに成功した。特に,ここで求めたモデルでは,星の赤道面上の表面に近い部分で,いわゆる捩れたトーラス状の磁場が極端に強くなり,この部分の物質を排除できることが分かった。この効果により,星の内部に物質の密度が無視できるトンネル状の磁気圏持つような解が存在することを世界で初めて示した。 COCALコードは2007年ごろから継続的に開発しているが,これに関連して相対論的自己重力流体の数値解法,特に連星中性子星の初期データ,ブラックホール―自己重力トロイドの平衡解,磁場を伴う回転星の平衡解についてのレビュー論文を Antonio Tsokaros氏(イリノイ大)との共著で出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度はコロナ感染症の影響で2020年度から延期していた国際会議 9th East Asian Numerical Astrophysics Meeting(EANAM9)を開催するため,科研費基盤研究C「数値相対論的シミュレーションの多様な初期データの構築」の事業を延長していた。この研究会での海外の研究者招へいに持ち越していた予算が,渡航制限のため余ったため,これを今年度のPC更新費用等に利用した。このため,本科研費事業の予算は今年度は利用せず,来年度以降に持ち越すことにした。本事業も引き続き,COCALコードの発展的な開発を継続することになるが,今年度は特に磁気圏を伴う磁気回転星の計算コードの開発に成功した。これは,本事業のテーマである定常波を伴う解の計算のように,高密度天体の外部の取り扱いに関する研究でもあるため,本事業の新しい研究テーマにスムーズに移行することができたと考えている。また,この研究からブラックホール周りの磁気圏の数値計算へのCOCALコードを応用といったテーマも研究可能になり,今後の研究の新しい展開に結び付いた成果をあげられたと思う。 他の研究成果として,2年前にCOCALコード上で開発した円軌道にある連星クォーク星準平衡解の初期データの計算コードを用いて,連星クォーク星合体シミュレーションのための初期データを共同研究者に提供した。このデータを利用し,連星クォーク星の最後の数軌道回転から合体に至るシミュレーションに成功し,これから放出される重力波の特徴について調べることができた。このように,COCALコードで求めた数値解が,数値相対論的シミュレーションの初期データに利用されることも近年多くなってきており,スムーズにデータを提供できる体制も確立してきている。以上のことから,本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
超強磁場を伴う相対論的回転星については,これまでに計算例も少ないこともあり,我々の開発したCOCALコードでしか計算できない極端に強い磁場を持つ場合や,多様な磁場の構造を持つ解など,かなり多くの問題に取り組むことができる。その1例として,磁場のために質量が球対称平衡解の最大質量を超える解(supramassive解)の計算を計画している。剛体回転や差動回転によるsupramassive解はこれまでに詳しく調べられてきているが,磁場によるsupramassive解の研究は少ない。また,ここで求めた数値解を初期データとしたシミュレーションも共同研究者が並行して進めている。磁気回転星の継続的な研究を主に2023年度の前半に行う。 2023年度の後半では,重力波を伴う初期データの計算コードの開発に取り組む。この準備として,3軸不等な回転星の数値解を,星に近い領域と漸近空間の2つの計算座標に分けた計算コードと,連星ブラックホールの初期データ計算コードをEinstein方程式の全成分を利用して解く計算コードをそれぞれ開発していく。前者のコード開発では,まず重力波を含まない定式化(Waveless定式)を用いて開発し,その後漸近空間の計算部分を定常波解を求める方法に置き換えることを試みる。後者については,連星ブラックホールの初期データを,同様にWaveless定式を用いて求めるコードを開発する。この際ブラックホールはトランペットパンクチュア型の解として求められるようにする。連星ブラックホールの初期データをこのような方法で求めた前例はないが,この方法は数値相対論的シミュレーションによる連星ブラックホール合体の際に得られる数値解に近い構造になると考えられるため,解が求まる可能性があると期待している。これが成功したら,前者のコードで開発した漸近空間での重力波計算の方法を取り入れていく。
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Causes of Carryover |
当初2020年に沖縄で開催予定であった国際研究会East Asian Numerical Astrophysics Meeting (EANAM9)がコロナ感染症の影響で2022年9月に延期された。EANAM9に参加予定だった共同研究者の旅費等に充てるため,これに合わせて2018年度~2020年度の計画だった科研費基盤研究C(18K03624)「数値相対論的シミュレーションの多様な初期データの構築」を2022年度まで延長していた。しかし,最終的にコロナの影響で渡航を断念したため,この科研費の予算が余ることとなった。 本事業の計画では,2022年度に新たに数値計算用ワークステーションと解析用のPCを購入する予定であった。しかし,上述の理由で科研費予算が余ったため,この予算を利用して,PCの更新費用に充てることにした。また,今年度は研究の進捗状況を考慮して,数値計算用ワークステーションの購入は見送り,本研究課題の予算を来年度以降に持ち越して,2023年度以降に新しいワークステーションを購入することにした。
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Research Products
(11 results)