2023 Fiscal Year Research-status Report
固体潤滑剤二硫化タングステンのX線回折および電子顕微鏡による格子欠陥構造の解明
Project/Area Number |
22K03889
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
橋本 敬三 帝京大学, 理工学部, 教授 (40307179)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 二硫化タングステン / 透過型電子顕微鏡 / X線回折 / 固体潤滑剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は宇宙機用固体潤滑剤として注目されている二硫化タングステン(WS2)の潤滑メカニズムに関する研究である。固体潤滑剤WS2をコーティング試料について室温及び高温において真空摩擦試験を行い,摩擦試験後の試料をX線回折と透過型電子顕微鏡を用いて解析する。高分解能電子顕微鏡像から原子レベルでの格子欠陥構造を明らかにする。 令和4年度は真空雰囲気中,室温から500℃までの高温において摩擦試験可能な回転摩擦試験機を設計製作し完成させ試験方法を確立した。格子欠陥構造の詳細を原子レベルで明らかにするために,高分解能電子顕微鏡像の画像シミュレーションソフト(BesTEM)を導入し,可能性のある積層欠陥構造の高分解能電子顕微鏡像のシミュレーションを行った。 令和5年度は高純度なWS2被膜を作製する方法として,マグネトロンスパッタ装置を用いたWS2被膜の作製条件を検討した。WS2被膜の作製は成功したが,基板との密着性が十分ではない結果が得られた,中間層としてTi層をスパッタしてWS2と基板との密着性を向上させている。WS2被膜の摩擦係数に及ぼす試験温度の影響を系統的に試験した結果,WS2は室温から200℃かけて摩擦係数が一定あるいは減少する傾向があり,300℃,400℃と試験温度を変化させて摩擦係数の測定を行うと摩擦係数が試験温度ともに増加する傾向が確認できた。従って,試験温度200℃において最も小さい摩擦係数を示すことが明らかとなった。摩耗痕から粉末試料を採取し,高分解能電子顕微鏡で観察した結果,すべり面(002)面の格子縞を観察することができた。さらに,格子縞には幾何学的に不連続な部分が存在し,格子欠陥の可能性を直接観察できた。格子欠陥を含んだ結晶モデルを構築し,その高分解能シミュレーション画像を計算し,高分解能電子顕微鏡画像との対比を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
WS2被膜の作製法として,高周波マグネトロンスパッタ法を用い,最適な成膜条件を探索しているが,まだ,成膜条件の確立が出来ていない。基板材料とWS2被膜との密着性が十分でなく,摩擦試験初期にWS2被膜がはがれて,試験開始直後からステンレス基板とSUS316製ボールとの摩擦係数を測定する結果となってしまっている。中間材としてTiを予め基板にスパッタしその後WS2膜をスパッタすることによって,WS2膜と基板の密着性を向上させる。 基板表面状態がWS2膜の密着性に及ぼす影響を明らかにするために,表面粗さコントロールした基板を作製し評価を行っている。 高温真空摩擦試験装置,X線回折装置,透過型電子顕微鏡,画像シミュレーションソフトは研究を遂行できる状態に保持しているので,密着性の高いWS2被膜が作製可能となればその後の実験は順調に進行すると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
スパッタ法によってステンレス基板上に作製したWS2固体潤滑剤被膜について,真空環境下,室温から500℃の試験温度における真空摩擦試験を系統的に実施する。高温摩擦試験後の試料について,摩耗痕に直接X線ビームを照射し,イメージングプレートを用いて2次元的な回折パターンを得る。すべり面(002)面の方位分布あるいは内部構造について解析を行う。摩擦試験後の摩耗痕の部分からWS2切片を採取し,マイクロメッシュ上に固定した後,透過型電子顕微鏡による高分解能観察を行い,格子像を撮影して格子欠陥に関する画像データを蓄積する。格子欠陥の構造を明らかにするために,欠陥構造を含んだWS2結晶モデルを作成し,X線回折データはリートベルト解析,高分解能電子顕微鏡観察像はマルチスライス法による画像解析を行う。室温から高温までの摩擦試験データとX線回折,TEMによる原子レベル高精度解析によって,原子レベルの欠陥構造を明らかにする。格子欠陥理論を基にしたWS2の摩擦メカニズムを提案する。
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Causes of Carryover |
高分解能電子顕微鏡画像シミュレーションソフトとして申請時にはTempas(200万円)を計画していたが、BioNet社のBesTEM(55万円)に変更したことにより差額が生じた。高分解能電子顕微鏡観察実験は当面、栃木県産業技術センター所有の透過型電子顕微鏡を申請者が操作して電子顕微鏡像を撮影することが可能なため、電子顕微鏡観察の外部委託については最小限にとどめる予定である。研究成果の発表として9月の国際学会での発表、日本金属学会での発表(大阪)を予定している。
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