2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K03984
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
貝塚 勉 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (50756369)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | マイクロホンアレイ / 雑音除去 / 雑音抑圧 / 音声強調 / 放射モード |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究目的は、マイクロホンアレイの近傍に話者の頭部が存在するときの収音性能を評価することであった。3個のMEMSマイクロホンを5cm間隔で直線状に並べ、アレイを構築し、それをダミーヘッドの口元の正面から3cmの距離に配置した。各マイクロホンの感度・極性の設定に当たっては、ダミーヘッドを考慮せず、自由空間を仮定した場合の音響伝達関数に基づき、放射モードの理論を適用した。すなわち、前記伝達関数に関する一般化固有値問題を解き、固有値が最大の固有ベクトルに従って、各マイクロホンの感度・極性を設定した。固有ベクトルの周波数依存性が緩やかであることから、周波数依存性を無視し、300Hz(音声通話の下限周波数)の固有ベクトルに従って各マイクロホンの感度・極性を設定した。 ダミーヘッドにはマウスシミュレータが搭載されており、これを使ってホワイトノイズを再生した。ダミーヘッドが話者を想定したものなのに対し、周囲の騒音源を想定してモニタースピーカを設置し、これを使ってホワイトノイズを再生した。マイクロホンアレイの中心から半径1mの円周上を15度間隔で移動させるかたちで、様々な方向から騒音が到来する場合を模擬した。 本マイクロホンアレイは、放射モードの理論に基づき、近距離場から到来する音を優先的に計測するものである。言い換えれば、到来音の距離減衰の促進を狙ったものである。その原理上、低周波音に対して性能を発揮しやすい。前記実験の結果から、1000Hz以下の周波数帯(一般的な環境騒音の主成分と考えうる周波数帯)で単一マイクロホンに対する優位性が示された。すなわち、各方向で7~18dBの距離減衰の利得が得られ、全方向の平均では11dBの距離減衰の利得を得られた。つまり、自由音場を仮定した簡易な設計であっても性能を発揮できたわけであり、本マイクロホンアレイのロバスト性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究目的は、自由空間での収音性能を示すことであるところ、複数のMEMSマイクロホンを並べてマイクロホンアレイを構築し、無響室での性能評価実験を行い、単一マイクロホンに対する優位性を示した。なお、3個のMEMSマイクロホンを用いる構成と、5個のMEMSマイクロホンを用いる構成を試し、いずれも単一マイクロホンに対する優位性を示したが、より優れた性能を示したのは後者だった。以上のとおり、概ね順調に研究を進められた。 2023年度の研究目的は、マイクロホンアレイの近傍に話者の頭部が存在するときの収音性能を示すことであるところ、無響室にダミーヘッドを設置して性能評価実験を行い、単一マイクロホンに対する優位性を示した。小型化を狙いとして、3個のMEMSマイクロホンを用いる構成を採用した。マイクロホンアレイの設計においては、簡素化を狙いとして、ダミーヘッドを考慮せず、自由空間を仮定した。それでもなお単一マイクロホンに対する優位性を確認できたことは、「簡単な方法でありながら、性能を発揮できる」という本マイクロホンアレイの特徴を示すものである。以上のとおり、概ね順調に研究を進められた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度の研究目的は、マイクロホンアレイが室内に置かれたときの収音性能を評価することである。すなわち、部屋の壁により生じる音の反射(残響)が収音性能に与える影響を調査する。残響時間の異なる複数の部屋を対象に調査を行う予定である。2023年度までに構築したマイクロホンアレイ(3個のMEMSマイクロホンを5cm間隔で直線状に並べたもの。ヘッドセットとしての応用を想定)を引き続き使用する。なお、本実験の際にも、マイクロホンアレイの近傍にダミーヘッドを配置し、話者の頭部による音の反射・回折の影響もあるなかで収音性能を評価する。
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Causes of Carryover |
「研究実績の概要」に記したように、自由音場を仮定した簡易な設計であっても、マイクロホンアレイの近傍に話者の頭部が存在する状況において一定の性能を発揮できた。それがかなわなければ、頭部モデルを盛り込んで音響伝達関数を数値的に求め(有限要素法)、それに基づきマイクロホンアレイを設計する必要性が生じ、その数値計算を行うための計算機等の購入に予算を使う計画だった。実際にはその必要がなくなり(自由音場を仮定した簡易な設計であっても、性能を発揮できた)、一部の予算を次年度に繰り越すことになった。
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