2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on auditory characteristics of swimmers during free swimming
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22K04000
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
仰木 裕嗣 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (90317313)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
生田 泰志 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30243281)
成田 健造 鹿屋体育大学, スポーツ・武道実践科学系, 講師 (70836999)
谷川 哲朗 大阪国際大学, 人間科学部, 講師 (90615452)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スポーツバイオメカニクス / スポーツ工学 / スポーツ情報科学 / 水泳 / 水中聴覚 / スポーツ音響 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「自由遊泳中のヒトが水中および水面付近(ここでは水面上と水面直下を意味する)においてどのようにして音を聴いているのか?」というヒトの水中聴覚を明らかにすることを第一の目的とし,「自由遊泳中のヒトに対して音声や音響によって情報伝達を行う場合にはいかなる音源位置,音量,周波数特性を選択すれば良いのか,その指標を提示する」ことを第二の目的としている.研究は段階を追って,実際にトレーニング中に様々な泳法で泳いでいる状況を想定して,泳者がどのように音を聴いているのかを明らかにすることを目指している.研究計画初年度の令和4年度はまず水泳選手が普段泳いでいるプール環境がどのような騒音環境であるのかを明らかにする必要があるためボイラー・空調機の稼働有無のそれぞれの状況でプール水中環境音の音場計測を実施した.その後,牽引泳中の泳者が水中で発せられた音の最低可聴音圧を同定するために,水中環境下においてオクターブバンドテスト音を発しその音が泳動作中に聞こえた場合に反応するという検証実験を健常者水泳選手のクロール泳を対象に実施した.その結果,オクターブバンドテストにおける低域周波数領域,125Hz,250Hzではほぼ泳者が聞き取ることができないものの,その上の領域の周波数に対しての反応は被験者ごとに大きな個体差があることを確認した.その要因が何かまでは未だ掴めてはいない.クロール泳動作自身によって生み出される水撃音や呼吸時の音など泳者自身が生み出す音が泳者固定のハイドロフォンでは非常に大きな音として捉えられることから,水中音を判読する状況は泳者が集中して意識せざるを得ず,普段のトレーニングと同じ状況を生み出すことの難しさが明らかになっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画1年目の令和4年度は(課題1)晴眼泳者による自由遊泳環境,および他の泳者の存在する環境における泳者頭部周りにおける音響測定とヒトの感性計測,が予定されていた.プールでは観測対象の泳者が発する音以外にも,他の泳者も同様に動作によって常に水撃音や呼吸動作音が生じている.そこで問題を明らかにするために初年度は空調・ボイラー音等の環境音を限りなく減らした中での環境音ノイズレベル計測を実施したのち,これまでの研究で実施してきた牽引泳を実施した.実験では水中スピーカーより発せられる音源の最小可聴域レベルを同定するために晴眼者の健常泳者が被験者となり水中にてオクターブバンドテストをクロール泳中に実施した.音源位置については頭部左側面から発し音量を上昇または下降させることによりそれぞれの場合の最小可聴音圧を被験者ごとに計測した.その結果,オクターブバンドテストにおける低域周波数領域,125Hz,250Hzではほぼ泳者が聞き取ることができないものの,その上の領域の周波数に対しての反応は被験者ごとに大きな個体差があることを確認した.水中音響計測では音源の水中スピーカー位置付近に置かれたマイクロフォンによって計測した音を基準音圧とし,泳者の左右の耳元,および遊泳コースの水面直下におかれたマイクロフォンによって計測することで泳者を取り巻く環境音を採取した.またこの被験者実験に先立ち,泳者が泳ぐ位置を取り囲み三次元格子状にハイドロフォンを配置し,プール内の環境音の計測をボイラー空調の有無の条件下で計測を行った.この環境音はプール固有の音環境を示すものであり,泳者がこのプール音環境で泳ぐことでそこに自身が泳ぎによって発する音とスピーカーから発せられる音の混在環境下で試技が行われているものととらえ,この環境音データを今後の被験者試験の基礎データとした.
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Strategy for Future Research Activity |
計画調書では,研究2年目には,(ii) 【R5年度】視覚障がい泳者による自由遊泳環境,および他の泳者の存在する環境における泳者頭部周りにおける音響測定とヒトの感性計測について取り組むことを予定している.初年度に行った泳動作中の聴覚特性試験を視覚障がい水泳選手を対象に実施するため,R4年度末には日本パラ水泳連盟主催の大会を訪問し,視覚障がい水泳選手への実験計画の説明と参加の同意を得ることまでを終えている.初年度同様にこれらリクルート済みの視覚障がい水泳選手による牽引泳時の水中聴覚試験を実施することで,初年度に行った健常者水泳選手との差異を見出したいと考えている.初年度において実施できなかった自由泳中の水中聴覚計測については,その計測技法の確立を目指す.また,初年度には日本音響学会内のスポーツ音響学の専門家に様々なアドバイスをいただく機会を得たが,その提案のひとつである静水中に泳動作を伴わない条件下での実験を実施するべきである,という意見を取り入れ2年目のR5年度においてはこの静水環境下での水中聴覚特性試験を追加して実施する予定である.
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Causes of Carryover |
初年度の水中環境音計測において,プール内環境音(ボイラー・空調のそれぞれの有無)に関して,当初予定していた以上の時間がかかり,その後の実験である牽引泳中の水中聴覚計測実験のみが完了している.したがって初年度に目標としていた自由水泳中の水中音響計測が実施できておらず,その実施にかかる費用を次年度に持ち越すことに決定した.2年目にあたる令和5年度には視覚障がい水泳選手による被験者実験が予定されているが,併せて健常者水泳選手における自由水泳中の聴覚特性の計測を試みる予定である.
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